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2018年10月19日 (金)

日本伝統信仰と一神教の自然観の違ひ

 

 

イスラム教徒にとって理想郷とは、川が流れ泉があり緑のある所である。「エデンの園」とはさういふ所である。『コーラン』には次のやうに記されてゐる。「神は、男の信者にも女の信者にも、下を河川が流れ、そこに永遠にとどまるべき楽園と、エデンの園の中のよき住まいとを約束したもうたのである」「楽園には木々が生い繁る。…流れ出る泉が共にある。…深緑に包まれている」「神を懼るる人々に供えらるるは安き場所、緑したたる果樹園とたわわに實る葡萄園」。

 

泉が涌き、川が流れ、緑滴る楽園、それはまさに我々の生活する「緑の日本列島」である。日本のやうな気候風土の國こそ、砂漠の宗教にとって「楽園」であり「理想郷」なのである。曽野綾子さんは、『人間の目利き』という対談集でイラクの小学校の女性の先生たちを日本に招かれて、伊勢神宮にご案内されたことを話された。彼女たちが伊勢神宮の外宮で柏手を打って拝礼をしたこと、そして五十鈴川のほとりを散策して感激したことなどを紹介されている。

 

曽野綾子さんは、『伝統と革新』第二十三号(平成二十八年五月発行)におけるインタビューで小生の質問に答えて、「(伊勢神宮は)尽きることのない清流、まわりに緑したたる森がある。『アラブの大義』のために聖戦に参加して、死んだら行けるとアルカイダたちが言っている天国というものを、彼女たちはこの世で見たのだと思います」「私は、じつは伊勢神宮が大好きなんです。伊勢神宮は、ずっと人々に優しかったですよね。末社が一二五社もおありになって、当時の人々がお酒を造ったり、塩を造ったりすることを支えていらっしゃったのです、つまり物心両面で社会の人々を支えていらっしゃったわけです。本当にすばらしい。伊勢神宮は日本の誇りだと思います。日本は本当にいい国だと私は思います。ですから、日本に住んでいて日本の悪口を言う人には、どうぞ、好きな所に移住して下さい、といつも言っています(笑い)」と語られた。

 

穏やかな風土の緑豊かな地に生まれた多神教の神は、自然と一体であり自然の中に宿る。不毛な風土の砂漠地帯に生まれた一神教の神は、自然と対立しこれを支配し征服する神である。日本伝統信仰は、自然の「神のいのち」として拝ろがむ。ところが、キリスト教の自然観は、人間は神の命令により自然を征服し支配し改造する権利を与へられてゐるといふ信仰なので、庭造りにしても、自然を改造して美しさを作り出す。

 

『創世記』には、「神いひ給ひけるは、『我等に象(かたど)りて、我等の像(かたち)のごとくに我等人を造り、之に海の魚と、空の鳥と、家畜と全地と地に匍ふ處の諸(すべ)ての昆蟲(はふむし)を治めしめんと』…『生めよ殖えよ、地に滿てよ、地を從がはせよ。又海の魚と空の鳥と地に動く所の諸(すべ)ての生き物を治めよ、…』」と記されてゐる。

 

この神の命令により、神の形の如く造られた人間は、自然を征服し支配し改造し操作し利用する権利が与へられたとされる。これが西洋における自然改造の手段としての科学技術や機械の発展の精神的基礎であると言へる。近代科学技術はこのような自然観を基礎として発達し、それによって人間は便利な生活を享受したが、反面、そのために自然を破壊しつつある。

 

神への信仰があるうちは、神が創造した自然を、人間の利己的な目的のみのために利用し改造し害することは、神に対する「罪」であるといふ慎みの心があった。しかし、その天地創造の神を否定する人が多くなった近代においては、さうした心も消え失せ、人間の「幸福」のために自然を改造し破壊してきたのである。それが現代における自然破壊・公害問題の根本原因であると考へる。

一方、日本の精神伝統は、自然崇拝、自然を神として拝む心がその基本にある。これが日本の精神史の不滅の基礎である。

 

この自然崇拝の心(人と自然との一体観)といふ日本の精神伝統とは異なる一神教は日本に根付くことはなかった。

 

これまでの世界は、西洋文明・文化が主流となって歴史を形成してきた。たしかに西洋の文化・文明は偉大であり、それによって世界が進歩し発展してきた。しかし、現代は精神的にも物質的にも大きな困難に直面してゐる。各地で民族紛争・宗教紛争が起こり、資源が枯渇し、自然破壊が進み、人類は不幸への道を歩んでゐる。

 

この根本原因は、砂漠に生まれ、神と人間が隔絶した関係にあり、自然を人間の対立物ととらへ、一つの神・一つの教義を絶対視して他を排除する一神教的思想を淵源としてゐる西洋の文化・文明にあると考へられる。これを根本的に是正すべき時に来てゐる。

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