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2018年9月21日 (金)

「生産」とは「むすびの精神」である

 

「生産」といふ言葉が話題になっている。「やまと言葉」では、「生産」とは、「生(む)す・産(む)す」と言ふ。これは「日本傳統信仰」「神話の精神」の根本である「生成・結合・生産」の観念、すなはち「むすび」の精神である。

「生(む)す・産(む)す」の霊力を発現することを「むすぶ」と言ひ、和合・合一の精神を日本傳統信仰では、「むすび」と言ふのである。「むすび」は真の意味の平和の精神であり原理である。人と人との「むすび」は平和の基礎である。

 

人の生活は、「むすび」によって成り立ってゐる。「むすび」といふ神靈は、ものの生成・生産をつかさどる霊性である。その霊性そのものを「むすびの神」といふのである。その霊性の至高のご存在が「造化の三神」である。

 

天之御中主神と一体の関係にある高御産巣日神(タカミムスビノカミ)、神産巣日神(カミムスビノカミ)は、「生(む)す」といふ「天地生成の働き」を神格化し神の御名で表現したのである。「ムス」は生き物が自然に生ずる意、「ビ」は靈力の意であるといふ。また、「生産」「生成」を表はす「ムス」と「太陽の神靈」を表はす「ヒ」との合成であるといふ説もある。

 

ともかく「むすびの神」すなはち高御産巣日神、神産巣日神は、生命力の根源の神である。本居宣長は「凡てものを生成(な)すことの靈異(くしび)なる神靈(みたま)」としてゐる。高御産巣日神は男系の神であり、神産巣日神は女系の神である。

 

「むすび」は、生命の根源である。ゆゑに「結び」を「産靈」とも書く。人間の生命は男と女がむすぶことによって発生する。「息子(むすこ)」「娘(むすめ)」の語源も「生す子()」「生す女()」である。男と女がむすぶ(和合する)ことによって新たに生命が生まれる。それが「むすこ」「むすめ」である。

繰り返し言ふ。男女が和合することを「むすび」と言ふ。そしてその結果生まれて来た男子を「生()す子」=「息子」と言ひ、女子を「生()すめ」=「娘」と言ふ。男同士・女同士の和合では、子が生まれない。であるから、生産性はないのである。

 

前述した如く、「むすび」は日本傳統信仰(神道)の根本原理の一つである。自然物を生み成し、結び合ふ靈性・靈力を「むすび」といふ。

 

「むすび」「むすぶ」といふ言葉は、以上述べたやうな信仰的意義を離れても、「おむすび」「紐をむすぶ」といふ言葉がある通り、「離れてゐるものをからみ合はせたり、関係づけたりしてつなげる、まとまって形を成す」といふ意味で日常生活において使用される。

 

「庵(いほり)をむすぶ」「巣をむすぶ」といふ言葉があるが、庵は色々な木材や草を寄せ集めむすぶことによって作られた。そのむすばれた庵や巣の中に人などの生きもの・靈的實在が生活する。つまり生きものの生活は「むすび」の力によって可能となる。

 

折口信夫氏は「むすびめしは、古代の人は靈的なものと考え、米そのものを神靈と考えている。神靈である米をにぎって、更に靈魂を入れておくと考えた。…それが人の身体へ入るともっと育つ。…水をむすぶのは、禊、復活の水を与えるとき、靈的水をあの形で人の中に入れたのだろう。靈魂のある水を掌のなかへ入れて、発達させておいて人の中に入れる。そして『むすび』の作用をさせる。」(『神道の靈魂思想』)と論じてをられる。

 

『國歌君が代』の「苔のむすまで」の「むす」、大伴家持の歌の「草むすかばね」の「むす」も、「生産する・生える・生ずる」といふ語と同根である。

 

西角川正慶氏は、「むすびなる語源は結びに外ならず、靈魂を肉体に来触せしめて、生命力を新たにすること、即ち神の持たるる靈威を宿らしめていることで…鎮魂にほかならぬ。…神話に於ても、天子の重大儀また危機に際しては、天神の御教へと共に、常にこの神の発動がある」(『神道とはなんぞ』)と論じてをられる。

 

天地・國の生成は、〝むすびの原理〟の展開としてあらはれてくるのであって、日本的思惟においてはすべて〝一〟をもって〝創造の本源〟とし、そこから無限の「生きとし生けるもの・ありとしあらゆるもの」が生産され、生成するのである。そこに、多神にして一神、一神にして多神であり、多即一・一即多といふ大らかにして無限の包容性を持つ文字通り「大和(やまと)の精神」たる日本的思惟の根元が見出されるのである。

 

内田良平氏は、「大日本生産黨を創立せんとて詠める」と題して、

 

「國を生み 人を産ませし 神業に 神習ひして 世を救はばや」

「生み産みて 萬づの物を 育くまば 足らはぬことの なにあるべしや」

 

といふ歌を詠んでをられる。

 

古代日本人の稲作生活から生まれた「むすび」の精神が、生産による日本の発展の根幹にあるのである。

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