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2018年9月29日 (土)

『没後50年 藤田嗣治展』参観記

本日参観した『没後50年 藤田嗣治展』は、「「明治半ばの日本で生まれ、80年を超える人生の約半分をフランスで暮らし、晩年にはフランス国籍を取得して欧州の土となった画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ 1886-1968)。2018年は、エコール・ド・パリの寵児のひとりであり、太平洋戦争期の作戦記録画でも知られる藤田が世を去って50年目にあたります。この節目に、日本はもとよりフランスを中心とした欧米の主要な美術館の協力を得て、画業の全貌を展覧する大回顧展を開催します。本展覧会は、『風景画』『肖像画』『裸婦』『宗教画』などのテーマを設けて、最新の研究成果等も盛り込みながら、藤田芸術をとらえ直そうとする試みです。藤田の代名詞ともいえる『乳白色の下地』による裸婦の代表作、初来日となる作品やこれまで紹介されることの少なかった作品も展示されるなど、見どころが満載の展覧会です。」(案内書)との趣旨で開催された。

 

《目隠し遊び》1918、《タピスリーの裸婦》1923年、《自画像》1929年、《エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像》1922年、《狐を売る男》1933、《夏の漁村(房州太海)1937、《争闘()1940年、《アッツ島玉砕》1945、《サイパン島同胞臣節を全うす》1945、《私の夢》1947、《カフェ》1949、《フルール河岸 ノートルダム大聖堂》1950、《礼拝》1962-63などを参観。

 

《夏の漁村(房州太海)》は、安房國長尾藩の家老をつとめた藤田の祖先のゆかりの地である。小生の子供の頃、近所の方が太海に海の家を借りていたのでよく行った。《アッツ島玉砕》《サイパン島同胞臣節を全うす》は所謂戰爭がであるが、決して戦意を高揚させる絵ではないと思った。厳しくも凄惨なる戦場を描いている。戦時中この作品を見た人は、絵に向かって拝礼したという。

 

前にも書いたが藤田嗣治は、戦時中軍の要請で戦地に赴き、多くの戦争画を描いたところから、戦後になって、占領軍に媚を売り自己保身を図る画壇の人々によって、「戦争協力者」として指弾された。戦争画を描いた人々は他にも数多くいたのに、左翼によって「人身御供」にされたと言っていいだろう。これは、藤田嗣治が戦前はフランスにおいても高く評価され、戦時中帰国した時にも戦争画が高く評価されたことに対する画壇の一部の人々と言うよりも多くの人々の藤田に対する嫉妬があったからと言われる。

 

昭和二十二年の《私の夢》という作品は、全裸で眠る女性の周囲に闇が押し寄せ、古風な衣装をつけた猿、梟、鼠・狐などの動物たちが全裸の乳白色で描かれた全裸の女性を取り囲み今にも女性の体を引き裂こうとしているかのごとき不気味な作品である。

 

近藤史人氏はこの作品について、「藤田が日本を離れる前々年、一九四七年に制作された『私の夢』という作品がある。戦後初めて東京都美術館で開かれた展覧会に出品された絵である。中央には裸の女性が、周囲には人間の衣装をつけた猿や犬、兎など動物たちが描かれている。後にこの絵について藤田は中河与一への手紙の中でこう述べている。〈この二年間、戦争中の疲れを静かに休めて初めてとりかかった最初の作でした。やっと気分も落ち着いた或る頃、私か見ました夢を描いてみたのでした。人が裸で居て、獣が着物を着ていました。人間は頽廃して禽獣にも劣るという世相への皮肉かと言われましたが、ただこんな夢を見たまでと答えました〉こうした日本との複雑な関係は、やがて藤田に『帰化』という重大なる決断を指せる伏線となった」(『藤田嗣治「異邦人」の生涯』)と書いている。

 

中河与一もまた「戰爭協力者」として指弾され、文壇から事実上追放された。藤田と中河とは若い頃からの友人であった。何とも不思議な縁と言わざるを得ない。

 

戦後の糾弾の動きを嫌悪した藤田は、フランスに赴き、二度と帰国することはなかった。そしてアメリカ・ヨーロッパで大活躍し、世界的画家として地位を不動のものとした。日本の西洋画家として藤田嗣治以上の人はいないのではないか。

 

藤田は、日本国籍を捨ててフランスに帰化し、カソリックの洗礼を受けても、亡くなるまで日本を愛していた。味噌汁を飲み、浪曲のテープを聴きくことが多かったと言う。気の毒なことである。

 

晩年の《礼拝》という作品は、聖母マリアの左右に修道士姿の藤田夫妻が描かれているだが、何となく滑稽に見えるのは不謹慎であろうか。

 

私は、これまで藤田嗣治の大きな展覧会を三回見たが、今回は、はじめて見る作品が多くもっとも充実していたと思う。

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