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2018年6月15日 (金)

大伴家持が「むすび信仰」を詠んだ歌

 

たまきはる命は知らず松が

(

)

を結ぶこころは長くとぞ思ふ(一〇四三)

 

右の一首は、大伴宿禰家持の作なり。

 

大伴家持の歌。「たまきはる」は「命」にかかる枕詞。色々な説があるが、魂が発展し、張り出し、外に出て行くといふ意。冬の季節には籠ってゐた虫も動物も草木も、春になると動物は動き出し、植物の葉は張り出すので、「春」の語源は「張る」であると言ふ。四季の変化はあっても、いのちは永久に生き生きとしてゐるといふことであらう。

 

「命」は寿命のこと。「松が枝を結ぶこころ」は、吉凶を占ひ、また無事・幸福を祈るために松の枝を結ぶ風習。松の枝を結ぶことによって、自分の命の長久を祈った。

 

通釈は、「寿命のことはよくわからないけれども、松の枝を結ぶ心は、寿命よ長くあれと思ふ心からだ」といふ意。

 

家持二十五歳の時の歌と言ふ。今よりもずっと平均年齢が低かったので、かかる歌を詠んでも不思議ではなかったのであらう。

 

この歌は「むすび」の信仰を詠んでゐる。「苔が生()す」といふのは、苔の命がどんどん発展成長することである。命が出現することを「むす」と言ふ。

 

天之御中主神と一体の関係にある、高御産巣日神、神産巣日神は、「生(む)す」といふ「天地生成の働き」を神格化し神の御名で表現したのである。「ムス」は生き物が自然に生ずる意、「ビ」は靈力の意であるといふ。また、「生産」「生成」を表はす「ムス」と「神靈」もしくは「太陽」を表はす「ヒ」との合成であるといふ説もある。

 

ともかく高御産巣日神、神産巣日神は、生命力の根源の神である。本居宣長は「凡てものを生成(な)すことの靈異(くしび)なる神靈(みたま)」としてゐる。高御産巣日神は男系の神であり、神産巣日神は女系の神であるとされる。

 

「むすび」は、生命の根源である。ゆへに「結び」を産靈とも書く。人間の生命は男と女がむすぶことによって発生する。「息子(むすこ)」「娘(むすめ)」の語源も「生す子」「生す女」である。男と女がむすぶ(和合する)ことによって新たに生まれた生命が「むすこ」「むすめ」である。

 

また、「むすび」は日本傳統信仰(神道)の根本原理の一つである。自然物を生み成し、結び合ふ靈性・靈力を「むすび」といふ。

 

「むすび」「むすぶ」といふ言葉は信仰的意義を離れても、「おむすび」「紐をむすぶ」といふ言葉がある通り、「離れてゐるものをからみ合はせたり、関係づけたりしてつなげる、まとまって形を成す」といふ意味で日常生活において使用される。

 

「庵をむすぶ」「巣をむすぶ」といふ言葉があるが、庵はいろいろな木材や草を寄せ集めむすぶことによって作られた。そのむすばれた庵や巣の中に人などの生きもの・靈的実在が生活する。つまり生きものの生活は「むすび」の力によって可能となる。

 

折口信夫氏は「むすびめしは、古代の人は靈的なものと考え、米そのものを神靈と考えている。神靈である米をにぎって、更に靈魂を入れておくと考えた。…それが人の身体へ入るともっと育つ。…水をむすぶのは、禊、復活の水を与えるとき、靈的水をあの形で人の中に入れたのだろう。靈魂のある水を掌のなかへ入れて、発達させておいて人の中に入れる。そして『むすび』の作用をさせる。」(『神道の靈魂思想』)と論じてをられる。

 

『國歌君が代』の「苔のむすまで」のムス、大伴家持の歌の「草むすかばね」のムスも、「生産する・生える・生ずる」といふ語と同根である。

 

西角川正慶氏は、「むすびなる語源は結びに外ならず、靈魂を肉体に来触せしめて、生命力を新たにすること、即ち神の持たるる靈威を宿らしめていることで…鎮魂にほかならぬ。…神話に於ても、天子の重大儀また危機に際しては、天神の御教へと共に、常にこの神の発動がある。」(『神道とはなんぞ』)と論じてをられる。

 

草や木の枝や根を「むすぶ」といふ行為は、生命の無事を祈る意義があった。旅人は松の枝などを結んで無事を祈ったのである。

「むすび」といふことが可能なのは“本来一つ”であるからである。この“むすびの原理”(それは愛・和合・調和・合一と言ひ換へても良いと思ふ)といふものが天地宇宙生成の根源神=造化の三神の中に内包されてゐる。

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