« 千駄木庵日乗二十四日 | トップページ | 今日思ったこと »

2018年4月24日 (火)

自然神秘思想を詠んだ高市黒人の歌

 『萬葉集』に高市黒人という歌人の次の歌が収められている。

 

「ささなみの國つ御神(みかみ)のうらさびて荒れたる京(みやこ)見れば悲しも」                             (巻一)

 

 『壬申の乱』で滅んでしまった近江の都のことを悲しんだ歌。黒人は、柿本人麿と大体同時代の人。伝未詳。

 

 「高市氏」は古い家柄で、天津神を祭る齋場(いつきば)と関係のある「氏」であったといふ。「黒人」は「山部赤人」と同様に「まれびと」(稀人・普通ではない人)の名である。鬼も珍しい存在なので赤鬼・青鬼といふ「色」がつく。今日でも普通とは異なる状態になることを「色がつく」といふ。「黒人」「赤人」といふ名前を付けるのは、普通一般人とは異なった特殊な能力・役目を持ってゐる人だからである。黒人は神秘的な役目を持つ人物であと思はれる。

 

「ささなみの」は琵琶湖西南岸の土地の古称。天智天皇・弘文天皇の御代に都があった。「國つ御神」とは、その國の地主の神・國魂の神。「うらさびて」はウラとは心のこと。サビルは衰へる・さみしくなる・荒む・しぼむといふ意。「國つ御神のうらさびて」とは、國土の神霊が遊離してしまひ國土に威力・生気・パワーがなくなること。

 

 通釈は、「ささなみの國土の神様の威力・生気がなくなって荒れてしまった大津の都を見るのはさみしいなあ」といふ意。

 

荒れてしまった「ささなみの國」の土地の神を鎮魂し、なぐさめてゐる歌である。現實的に考へると、大津の都が荒れてしまったのは『壬申の乱』の結果である。しかし古代信仰から考へると、國魂(くにたま)の神の生気がなくなった結果なのである。天皇の祭り事が行はれる宮廷がなくなると、國土の霊も威力がなくなってしまふのである。近江朝廷か滅んでお祭りしなくなったから國土の霊の威力が無くなったのか、國土の霊の威力が無くなったから大津の都が滅んだのかは、相関関係にある。

 

黒人は信仰的なものの見方をした人である。古代日本人は、自然に神が宿ってゐると素直に信じてゐた。この歌には、黒人の内向的な憂ひと共に古代日本人の自然神秘思想・自然信仰が直截的に表現されてゐる。

 

自然に宿る神々は、人間を護り恩恵を与へてくれると共に、時に荒ぶる神となり、大変な脅威を齎す。東日本大震災など自然災害の被災地の姿を見るとそのことを實感する。現代に生きる我々は、自然に対する畏敬の念を取り戻さなければならない。大地震・大津波・原発事故は、自然に対する人間の姿勢が如何にあるべきかを示唆してゐる。

|

« 千駄木庵日乗二十四日 | トップページ | 今日思ったこと »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/121949/66647524

この記事へのトラックバック一覧です: 自然神秘思想を詠んだ高市黒人の歌:

« 千駄木庵日乗二十四日 | トップページ | 今日思ったこと »