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2018年1月23日 (火)

日本人の海の神と山の神への信仰

 

 日本人の海の彼方への憧れは非常に強い。日本人はお淨めに塩を用いる。塩は海から取れる。海が清らかなところと信ずるがゆえである。清らかさ・明るさを好む日本人のロマン精神は「海」への憧れと一体であったのである。また陸地の穢れたものはすべて海に流せば淨まってしまうという信仰があった。海には伊耶那岐伊耶那美二神の御子神であられる「わたつみの神(綿津見神)」がおられるという信仰がある。この綿津見神は伊耶那岐命が筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊されました時になりませる神である。古来日本人は清潔さを好み、海は清めの場所であり、海の神は清めの神であると信じたのである。日本文学の起源と言われている「祝詞」にはこの海への憧れ・日本人の持っている「陸地の穢れたものはすべて海に流せば淨まってしまう」という信仰が歌われている

 

 『大祓詞』には「天下四方(あめのしたよも)の國には、罪と云ふ 罪は在らじと、…大海原に押し放つ事の如 く、遺(のこ)る罪は在らじと祓ひ給ひ清め給ふ事を、…瀬織津比(せおりつひめ)と云ふ神、大 海原に持ち出でなむ。如此(かく)持ち出で往() なば、荒鹽(あらしほ)の鹽の八百道(やほぢ) の、 八鹽道(やしほぢ)の鹽の八百會(やほあひ)に座() す、速開都比(はやあきつひめ) と云ふ神、持ち可 可(かか)(のみ)てむ…」と語られている。

 

 綿津見の神のおられるところが即ち綿津見の神の宮・龍宮である。綿津見の神は、日子穂穂出見の命が兄君から借りた釣針を失って苦しまれていた時に、お助けした神である。

 

 柿本人麿は

 

「海神(わたつみ)の 手に纒()き持てる 玉故(ゆえ)に 磯の浦廻(うらみ) に 潜(かづき)するかも」(海の神が手に巻いて持っている玉のために、それを得ようと岩礁のある浦のほとりで水に潜ることよ)。

 

と歌った。

 

これは譬喩歌で、親許で拘束され自由に恋愛できない娘を、海神が手に巻いている玉に譬え、困難を冒してその娘を得むとする作者自身を海に潜って玉を取ろうとする人に譬えたのである。

 

「うみ」は「生み」に通じ、創造・生産の本源世界である。常世とも妣の国とも言うところは海の彼方の神のいる国なのである。そこは、太平洋岸では日の昇る水平線の彼方であり、日本海岸では日の沈む水平線の彼方である。そこには浦島太郎が老いなかった永遠の国・龍宮世界があると信じたのである。

 

 日本人はまた、山を信仰の対象として来ている。これを山岳信仰という。三輪山信仰・富士山信仰・御嶽信仰・白山信仰等々日本各地に山への信仰が今日も根強く行われている。これは山そのものを御神体としているが、その山を階梯としてより高い天上の清らかな世界に憧れているのである。

 

大和にある天の香具山は高天原につながる山として仰がれている。天の香具山を歌った歌は数多いが、その代表的な歌が、次に掲げさせいただく持統天皇御製である。

 

「春過ぎて 夏来(きた)たるらし 白妙の 衣乾したり 天の香具山」(春が過ぎて夏が来たのであろう。天の香具山には真っ白い衣が乾してあるなあ)

 

同じく大和の国の東側にある三輪山は、太陽の昇るところであるため、太陽信仰・天照大神信仰とつながり、三輪山のふもとに、伊勢に移られる前に天照大神が祭られたのである。ここから天の神、高天原の神への信仰が形成される。

 

三輪山を歌った歌は、額田王の

 

「三輪山をしかも隠すか雲だにも情(こころ) あらなも隠さふべしや」(三輪山をどうしてあのように隠すのか。せめて雲だけでも情けががあってほしい。隠し続けることがあるべきだろうか、あってはならない)

 

が最も有名である。これは額田王が天智天皇に従って大和から近江に移る時に、大和地方の象徴とも言える神の山たる三輪山との別れを悲しんで歌った歌である。

 

 海の彼方の世界も、山の上の天の世界も清らかで明るい世界である。海の明るさ・清らかさ、太陽の明るさ・天空の清らかさを憧れたということは、日本人がその基本的な感覚として、清らかさ・明るさを好んだことが知られるのである。

 混迷せる現実の世界から脱却し、理想の国を建設せんとする変革運動もまた、日本人が伝統的に抱いてきた他界即ち理想国へのロマン精神にほかならない。大化改新・明治維新・明治維新は全て神武建国への回帰という理想とロマンのもとに断行された。今日我々の目ざす維新変革もまたそうであらねばならない。

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