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2017年4月22日 (土)

日本の伝統的美感覚『みやび』について

伏見天皇

 

のどかにもやがてなり行くけしきかな昨日の日影けふの春雨

 

「のどかにやがてなってゆく景色であるなあ。昨日の日の光も今日の春雨も」というほどの意。

 

『玉葉和歌集』に収められている。『玉葉和歌集』は、鎌倉後期の歌集。二〇巻。伏見天皇の命により京極(藤原)為兼が撰。勅撰和歌集の一四番目。鎌倉室町期の勅撰集の中で、歌風の清新さにおいて『風雅和歌集』とともに高く評価される。

 

第九十二代・伏見天皇は、後深草天皇の第一皇子。建治元年(1275)、十一歳の時、大覚寺統の後宇多天皇の皇太子となり、弘安十年(1287)、二十三歳で践祚。永仁六年(1298)、御子の後伏見天皇に譲位、院政を行わせられる。御幼少期より和歌を好まれ、その後、弘安三年(1280)より出仕した京極為兼を師範とする。勅撰集編纂を企画し、応長元年(1311)、為兼に単独撰進を命ずる。正和元年(1312)、十四番目の勅撰集『玉葉和歌集』として奏覧。正和二年(1313)、出家され院政を後伏見院に譲られる。文保元年(1317)九月三日、崩御(御年五十三歳)。

 

国家と国民の平安を祈りつつ天下を治められる伏見天皇は、ある日のどかに移ろい行く自然の姿を素直に肯定され、殊の外麗しいものと感じられたのであろう。その実感が大らかに歌われている。日本の自然をいつくしまれる天皇の御心が優しく伝わってくる。

 

伏見天皇の天皇としての品格は自然に歌柄に反映し、大らかなお歌となっている。歌われた風景は、天地自然のいのちの中に生かされている人間を生き生きと伝えている。

 

日本天皇は、このような優しく美しいお心を持たれる御方なのである。決して権力や武力で民を押さえつけて日本国を支配される方ではないのである。

 

この御製に歌われているような優しく麗しい美感覚を「みやび」と言う。「みやび」は、日本人の傳統的な美感覚・日本的情緒とされている。この美感覚は、萬葉集末期の天平時代に生まれ、中古・中世には美の理想されるようになった。

 

近世の國学者本居宣長は、「みやび」こそ日本の傳統的情緒であるとして、「すべて人は、雅の趣をしらでは有るべからず」「すべて神の道は…理屈は、露ばかりもなく、ただゆたかにおほらかに、雅たる物にて、歌のおもむきぞよくこれにかなへり」(『うひ山ぶみ』)と言っている。

 

「みやび」とは、宮廷風で上品なことと定義される。洗練された風雅であり優美さである。言い換えると、素朴さ、未分化の美からさらに発展し、人事の洗練された美を追求し、それを自らの生活に知的技巧的に表現する態度である。それは恋愛や和歌の創作に具体的に表現された。自然や恋愛生活すら鑑賞的な態度で眺め、それを美しく表現した。

 

ただし、「みやび」は、単に平安時代における貴族的風流というよりも、宮廷において伝えられた日本の傳統美への憧れである。その根底には、天皇の祭祀があった。ただ、

 

光孝天皇御製

 

君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪はふりつつ

 

「あなたに贈ろうと思い、春の野に出て若菜を摘む私の手には雪が降りつづいている」といふほどの意。

 

一国の君主にしてこのように優しくも美しい歌を詠まれることに、外国の国王・皇帝とは全く異なる日本天皇の素晴らしさがある。自然をいつくし見つつ、愛するものへの思いやりとが渾然として一体になっている。この御歌も「みやび」を詠んだ典型といえる。

 

「みやび」は、萬葉歌人によっても歌われている。

 

大伴家持

うらうらに照れる春日に雲雀あがり情(こころ)悲しも独りしおもへば

 

山部赤人

春の野に菫摘みにと来し吾ぞ野をなつかしみ一夜寝にける

 

明日よりは春菜摘まむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ

 

これらの歌は、「ひやび」の窮極である評価されている。天平時代の美感覚が、その後の日本人の美の伝統の起源となったことを示す。紀貫之は赤人を高く評価し、平安時代には赤人の歌は「歌の理想」として尊ばれた。中古中世の日本人にとって和歌とは、人々の魂の表白・訴えであると共に、人々の生活の美的規範ともなった。その規範が「ひやび」であったと言える。

 

優雅にして品格のある美感覚を今日にまで継承されているご存在が皇室である。

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