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2017年3月20日 (月)

野嶋剛氏(ジャーナリスト、元朝日新聞台北支局長)による「台湾とは何か―日本に求められる台湾への新思考」と題する講演内容

昨年十一月二十六日に開催された『アジア問題懇話会』における野嶋剛氏(ジャーナリスト、元朝日新聞台北支局長)が「台湾とは何か―日本に求められる台湾への新思考」と題する講演内容は次の通り。

 

「自由は良い。しかし自由は代価を伴う。『朝日新聞』という重しが取れたのは、言論に関わる人間として気分が良い。フリーな活動を始めるにあたって、本年五月に台湾新政権発足と同時に、『台湾とは何か』という本を出した。これまでの日本人の台湾観を批判的にとらえ直した本。

 

『蔡英文の台湾』の誕生は節目であると感じる。民主化してからもう三十年。平和的革命、段階的に民主化が進んだのは世界的に稀有なこと。安倍政権が長期化。最も親台湾政権。日中対立は、日台接近が関わっている。

 

二〇一六年の選挙の意味で大切なのは、台湾のアイデンティティの結論が出たこと。独立か統一かの結論が出た。中台対立は兄弟喧嘩と評する人が多かった。しかし今の台湾問題をこういう立場で語る人は台湾のことをよく理解していない。中台関係は男女関係。中国は男。台湾は女。性格も理想も違うので結婚は無理と思っている。今度の選挙は心の中で独立の覚悟を決めた選挙。

 

中台関係は変化が起きている。アメリカからの支持が台湾総統選挙では重要な要素。『台湾は台湾であり中国ではない、自分たちは台湾人であり中国人ではない』と思うようになった。台湾人に『あなたは中国人ですね』と言うと侮辱になる。二〇〇〇年以降そうなった。自分たちは中國人だと思っている外省人第一世代は五%。次第に減る。

 

日本は台湾を二回捨てている。一九四五年の台湾放棄。一九七二年の日台断交。交流協会の二〇一五年の調査では、『日本が一番好き』と答えた人が五六%。六十代の親日の度より、二十代の親日度の方がはるかに高い。観光・文化交流によって日本が好きと言う人が若者に多い。台南の地震の時に日本からものすごい支援があった。東日本大震災の時は日本からものすごい支援があった。

 

『日華関係』と『日台関係』の二つがある。『日華関係』とは『日中関係』のコインの裏側。日台関係は民間の人的交流。『以徳報怨』=蒋介石への恩義論は台湾人には実感なし。台湾は常に外来政権に支配されてきた。日本人は台湾への関心が強い。『台湾の民主化』がキーワードとして成り立たなくなった時に、地震で善意の連鎖が起きた。キーワードが変わってきた。日本は安定的な台湾政策を持つべし。

 

右寄りの論壇人やメティアは蒋介石を支持していた。民主化が始まると台独にシフト。李登輝が国民党から離れたのと同じように、日本の右も国民党から離れた。民進党はリベラルな政党。蔡英文は反原発。マイノリティ。これを日本の右が支援。民進党が反中国だから支持している。日本の左=朝日新聞・岩波書店、以前のNHKは、蒋介石時代には台湾を徹底的に批判していた。朝日には二〇〇年まで蒋介石の記事は全くと言っていいほど出てこない。それと反対に毛沢東を大きく取り上げた。軌道修正をしていても台湾に対して明確なビジョンを示すことはできない。思考停止になっている。二〇〇年以降朝日は頑張った。最近の朝日は産経よりきちっと書いている。

 

台湾の民進党はリベラル政党だが、日本の左派は台独に対する心理的嫌悪感がある。中國からの批判を恐れている。右の人は、『台湾頑張れ』という主観を持っている。左の人はそれがない。少数者が生存を求めて権利を勝ち取っていくのがリベラルなのに、中国の枠を課せられて台湾を支持出来ずにいる。台湾応援団は右に取られている。左は後れを取っている。

 

中台関係は大事だが、日本人がどう思うかとは本質的に関係ない。中国の言論統制は嫌いだが、中国そのものは否定できない。台湾が好きな人に中国を悪く言う人が多い。日本もアメリカも二者択一からスタートしている。客観的に台湾社会の変化を正視すべし。何故、台湾は尖閣流有権を主張しているのか。蒋介石は琉球独立を支持した。健全で普通の隣人になるにはどうしたらいいのかの一点に尽きる。

 

台湾人のアメリカへの好感度は低い。アメリカとの距離は日本ほど近くはない。台湾は戦勝国なので、アメリカの支配に入って来なかった。台湾でエリートになるには、アメリカに留学しなければならない。庶民レベルではアメリカ体験は共有されていない。アメリカは台湾に旧世代の戦闘機を最新型と同じ値段で売りつける。アメリカの横暴が見える。弱者の身も蓋も無い現実を台湾人は見ている。

 

沖縄県民の台湾への意識は分かりづらい。少なくとも沖縄の左派は親中的。台湾は冷淡。八〇年以前の日本の如し。琉球独立団体は中国と仲良くしたい。太田元県知事は中国によく招待される。マイノリティなのに同じマイノリティに冷淡。戦後、台湾人が数多く沖縄に移住している。台湾の人々、民進党は『沖縄基地を削減すべはではない』と言い沖縄の反基地闘争を批判する。習近平がいくら圧力をかけても、台湾人に中国との統一意識が甦ることはない。馬英九時代に台湾化が圧倒的に進んだ。

 

台湾は国家としての枠組みを持っている。台湾は政府、人民・軍・法制度を持ち、選挙をしている。国際承認だけが欠けている。香港とは明らかに異なる。香港は制度上、中国に入っている。香港は司法も中国にコントロールされている。民意を無視している。香港の人は希望を寄せる出口が無い。危ういところに追い込まれている。中学生高校生は独立思想に染まっている。香港は香港という流れが加速している。このままで行くとえらいことになる。『今日の香港明日の台湾』と言われている。

 

香港情勢は台湾に大きな影響を及ぼしている。香港と台湾は連動しながら中国に対抗している。中国は主権が及んでいない台湾に対して『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』というアプローチはできない。主権が及んでいるチベット、ウィグルに対しては殺してしまう。香港も独立を主張すると、国家統一の反するということで思想犯になる。『殺してしまえ』というアプローチでやって来る。台湾にはそれは出来ない。

 

台湾は南向政策を打ち出している。ASEANとの関係強化を図っている。台湾も南洋文化の一部である。台湾は中華よりもアジアとつながっている。アジアとの一体化を強調。しかし現実にはASEANは台湾を受け入れる状態ではない。カンボジア、ラオス、タイは中国が何を言っても『ハイ』と言う。マレイシア・シンガポールは自由陣営。フィリッピンは新大統領になって中国に傾いている。台湾人自身が国名についてコンセンサスを持つべし。台湾自身が『中華民国』を『台湾』にしていない。大使館名も『台湾代表処』にすればいい」。

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