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2017年3月31日 (金)

この頃詠みし歌

          

 

わが母は我の手を握り眠りたまふいかに愛しきその寝顔かな

 

眼もうつろになりたまひたるわが母をなすすべもなく見つめゐるのみ

 

点滴も酸素吸入も効果なくつひに逝きたりわが母上は

 

全くも意識なくなりしわが母のみ顔に近づき声かけてゐる

 

肉体はよし滅びても魂はとことはなりと母を祈れり

 

素晴らしき安住の地にわが母はのぼりましたり春浅き日に

 

父も母もこの世を去りて我一人生きてゆくなりさみしけれども

 

食欲が減退してゆくわが母に不安の思ひをつのらせし日々

 

先祖の御霊に経誦しまつり今日もまた我のひと日は終らむとする

 

九十七歳を目前にして逝きませし母の生みし子は古希迎へたり

 

七十歳となりにし夜に九十七歳で逝きたる母の御霊拝ろがむ

 

我を生み育てたまひしわが母の御霊拝ろがむ古稀迎へし日

 

彼岸会に父母の御霊の前に座し經誦しまつる静かなる時

 

母の友が二人来りて花を供へ手を合はせくれし春の朝かな

 

春風が吹き来る丘に鎮まれる四宮家の墓に花供へたり

 

春彼岸先祖の墓に手を合はせ御守護を祈る時清々し

 

春の風に紫煙流るる墓所の前先祖の御霊に祈り捧げる

 

春の雨やわらかに降る町を歩み母を恋ほしむ心切なり

 

わが父と同じ戦地で戦ひし宮柊二氏の歌を讀みゐる

 

通ひ行きし施設にはもう母は居まさずわが部屋に白き骨壺がある

 

事務的に臨終を告げる医師の言葉聞きつつ無念の思ひ湧き来る

 

永遠に生きたまへといふわが祈り空しくなりし二月二十六日

 

父母の御霊は永久に生きたまひわれを守らすと信じ生き行く

 

佳き人よりの便り有難し母の逝去を悼みてわれを慰めくれぬ

 

            ○

百薬の長と気違ひ水との価値判断どちらも真実と思ひつつゐる

 

部屋内に積み上げられし雑誌新聞如何にせんかと溜息をつく

 

キャンキャンと声張りあげるをみなあり蓮舫といふ厭はしきかな

 

空見上げわが町に銭湯の煙突がなくなりし事をさみしみてをり

 

はるかなる過去となりたり郡上踊り見つつ過ごせし旅の思ひ出

 

さみしげな響きに聞こえし郡上踊り歌の友らと聞きし思ひ出

 

エスカレーターで登り来たりし丘の上小さき美術館を経巡りてをり(泉屋博古館分館)

 

すれ違ひし知り人は気が付かぬふりをして去り行きにける地下鉄のホーム

 

朝日影まぶしく光るを仰ぎつつ祝詞唱ふる朝清々し

 

窓の外に鳥が来ることなくなりてややにさみしき思ひするなり

 

爽やかに生きたきものを人の世の荒波激し昨日も今日も

 

佳き人の握りし寿司を頬張りて今日のひと日の喜びとする

 

渇きたる日々続き来て雨降ればわが心こそうるほひにけり

 

パス待てどなかなか来ない夕暮にベンチに腰掛け人通りを見る

 

待てば必ずバスは来たるに何とてか焦る心を持て余しゐる

 

久しぶりに会ひたる友と春の日の下で楽しく語らひにけり

 

春の日の光あまねき神苑に友と語らふひと時ぞ良し

 

靖國の宮の館の講堂で般若心経を誦する不思議さ

 

若き僧侶が靖國の宮で講演す山岡鉄舟を語らむがため

 

何となく心しほれて過ごしゐる夜のしじまの温風機の音

 

愛らしき幼子の笑顔の汚れなさわが腹を叩き喜びてゐる

 

幼子の無垢なる笑顔を見つめつつ新しき命を寿ぎてゐる

 

汚れなき幼子の笑みは疲れたる我の心を慰めくれる

 

幼き命これからこの世を生きてゆく幸多かれとただに祈れり

 

春の雨降りしきる夜にタクシーを待てど来らぬ春日町の角

 

春雨に濡れて歩めば昔見し芝居の台詞を思ひ出しをり

 

あざやかな新国劇の大殺陣を父上と見しは半世紀前

 

父上に連れられ行きし明治座で新国劇を見し遠き思ひ出

 

浜町明治座島田辰巳の立ち回り今も鮮やかに目に浮かび来る

 

今日もまた机に向かひものを書くわが生活は恙なくして

 

新しき朝日の光眩しくてわが身を照らすさきはへの時

 

チュチュチュチュと鳴き声立てて小さき木に群がる雀を愛ほしみつつ見る

 

春の日の巷の樹木にチュチュと鳴く雀の群れの愛ほしさかな

 

三分咲きの桜の木々を眺めつつ谷中の町を急ぎ歩めり

 

春の風そよそよと吹く真昼間に友と語らふひと時ぞ良し

 

懐かしき人々の顔が浮かび来る早春の日の午後のまどろみ

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