« 千駄木庵日乗一月十九日 | トップページ | 千駄木庵日乗一月二十日 »

2017年1月20日 (金)

八幡大神のご神徳

 

八幡神が信仰されるやうになったのは奈良時代からであり、神話には登場されない神である。八幡信仰が盛んになったのは、武門とりわけ源氏の隆盛と深く関はりがあると言はれる。また、怨霊の魂鎮めとも関連があると言はれてゐる。中世以来、討死した武将、攻められて自裁した武将及びその一族を、八幡神として祀った例が多くあると言はれる。

 

神代以来の神々いはゆる天神地祇とはそのご性格を少しく異にしてゐると言へる。ただし日本民族の神への信仰は、教義や教条に基づくのではなく、自然な信仰心によるのであり、あまり理詰めで神のご由来やご性格を考究する必要はないと考へる。

 

「かみ」「かむ」(神)のカは接頭語である。ミとかムに意味がある。ミ・ムは霊的な力をいふといはれてゐる。また、ミは身であり実である。即ち存在の実質・中身のことである。即ち強い霊力・霊威を持った存在のことをカミと言ふ。

 

本居宣長は、「凡て迦微(カミ)とは、古御典等(イニシヘノフミドモ)に見えたる天地の諸の神たちを始めて、其を祀れる社に坐す御霊(ミタマ)を申し、また人はさらに云はず。鳥獣(トリケモノ)木草のたぐひ海山など、其餘何(ソノホカナニ)にまれ、尋常(ヨノツネ)ならずすぐれたる徳(コト)のありて。可畏(かしこ)き物を迦微(カミ)とは云なり、すぐれたるとは、尊きこと善きこと功(いさを)しきことなどの、優(スグ)れたるのみを云に非ず、悪(アシ)きもの奇(アヤ)しきものなどをも、よにすぐれて可畏(かしこ)きをば、神と云なり」と述べてゐる。この考へ方が今日の神道学の神観となってゐる。

 

八幡神も「尋常(ヨノツネ)ならずすぐれたる徳(コト)のありて。可畏(かしこ)き物」なのである。

 

八幡神がわが国最初の神仏習合神として早くから信仰された。聖武天皇は、東大寺大仏(盧舎那大仏)造立に際して、豊前国の宇佐宮に勅使として橘諸兄(従三位左大臣)を遣はし、「国家鎮護」と「大仏造立」の祈願を行はせられた。天平十九年(七四七)に八幡神の「天神地祇を率いて大仏建立に協力しよう」といふ意の神託が下された。

 

天平二一年(七四九)陸奥の国から大仏像に使ふ黄金が献上され大仏造立が完成した。聖武天皇は大変お喜びになり、この年の七月二日天平勝宝と元号を改められた。黄金の発見といふ瑞祥は八幡神の神徳のよるものとされたのであらう。天平勝宝元年(七四九)十二月に、宇佐八幡の神霊が、紫錦の輦輿(れんよ・鳳輦のこと)に乗って入京し、東大寺の地主神として迎へられたと言ふ。紫錦の輦輿は、天皇のお乗り物であり、八幡神がすでにこの頃、応神天皇の御神霊であると信仰されてゐたと思はれる。

 

天応元年(七八一)に、八幡神に「八幡大菩薩」の神号が与へられた。延暦二年(七八三)には、「護国霊験威力神通大自在菩薩」といふ号も加へられてゐる。

神仏習合の初期現象たる「八幡神上京」は、教義・教条の理論的裏付けがあって行はれたのではない。現実が先行し、それに後から理屈がつけられたのである。まず神と仏が習合することが先だったのである。ここが日本民族の信仰生活の特徴であり、幅が広く奥行きが深いといはれる所以である。融通無礙なのである。

 

石清水八幡宮も、創建以来、幕末までは神仏習合の宮寺で石清水八幡宮護国寺と称してゐた。明治初期の神仏分離までは「男山四八坊」と呼ばれる数多くの宿坊が参道に軒を連ねた。今日も、男山の麓からけーブルで登って行くと、宿坊の跡らしい所が点在してゐる。

 

神と仏とがごく自然に同居し、同じく人々によって信仰せられて来たのが日本の信仰の特色であり傳統であらう。神と仏とを理論的教学的に識別する以前に、日本民族の信仰においては、感性において神と仏とを同一のものの変身した存在として信仰したのである。一つの家に神棚と仏壇が祀られ安置されている姿は、一神教の世界ではあり得ないと思ふ。

 

日本人が太古から継承してきた自然信仰と祖霊信仰といふ日本民族の中核信仰に外来宗教が融合されていったのである。石田一良氏は「神道の原質と時代時代の宗教・思想の影響との関係は『着せ替え人形』における人形と衣裳との関係のようなものと喩えられるかもしれない。…神道の神道たる所以は原初的な原質が時代時代に異なる『衣装』をつけ、または『姿』をとって、その時代時代に歴史的な働きをする所にある」(『カミと日本文化』)と論じてゐる。

 

いくら外来宗教を受容したからとて、わが国の風土と日本民族の気質から生まれたすべてを神として拝ろがむ伝統信仰の中核は失はれることはなかったのである。

|

« 千駄木庵日乗一月十九日 | トップページ | 千駄木庵日乗一月二十日 »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 八幡大神のご神徳:

« 千駄木庵日乗一月十九日 | トップページ | 千駄木庵日乗一月二十日 »