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2016年12月 8日 (木)

日本伝統精神への回帰

 

 古代日本精神を今日まで文献的に伝えているものは『古事記』『日本書紀』『萬葉集』である。これらの文献は、『聖書』『コーラン』『仏典』『論語』のような教義・教条が書き記されている文献ではない。日本の神々と日本国の歴史が叙述され魂の表白たる歌が収められているのみである。日本人があくまでも真実を尊び人間の感性を重んじ抽象的な論議や理論を重んじなかった証拠である。

 

 近世の国学者・平田篤胤はその著『古道大意』において、「古ヘ儒佛ノ道、イマダ御国へ渡リ来ラザル以前ノ純粋ナル古ノ意(ココロ)古ノ言(コトバ)トヲ以テ、天地ノ初ヨリノ事実ヲ素直ニ説広ヘ、ソノ事実ノ上ニ真ノ道ノ具ツテイル事ヲ明アムル学問デアル故ニ、古道学ト申スデゴザル」「真ノ道ト云フモノハ教訓デハ其旨味ガ知レヌ、仍テ其古ノ真ノ道ヲ知ベキ事実ヲ記シテアル其ノ書物ハ何ジヤト云フニ、古事記ガ第一デゴザル」と述べている。

 

篤胤は、儒教や仏教という外来思想が日本に入り来る前の純粋なる古代日本の言葉を以て天地生成の起源からの事実を素直に記述し、その事実の上に立って日本民族固有の『道』を明らかにするのが古道(日本伝統精神を学ぶ学問)であり、日本伝統精神は教義・教条ではその真の意義を体得することはできず、古代以来の日本伝統精神を記してある書物の第一は『古事記』であると論じているのである。

 

 さらに近世の国学者であり萬葉学者であった契冲はその著『萬葉代匠記怱釈』において「神道とて儒典佛書などの如く、説おかれたる事なし。舊事記、古事記、日本紀等あれども、是は神代より有りつる事どもを記せるのみなり。」と論じている。

 

 つまり日本の伝統精神すなわち日本民族固有の『道』は事実の上に備わっており、一人の人物が書き表した教義書・経典に依拠しないというのである。抽象的・概念的な考え方に陥った教義万能・経典万能の思想から脱却し、日本人としての真心を以て祖先の歴史の真実を見てそれを戒めとしつつ自己の道徳意識を養成し、人間の真心をうたいあげた言の葉(即ち和歌)を学ぶことが、日本人一般の思想傾向である。

 

 こういう教義・教条を排するという日本民族の柔軟な態度が、日本文化の発展の基礎であり、日本が古代以来仏教や儒教などの外国思想を幅広く受け入れて自己のものとし、さらにそれをより高度なものにし、さらに近代においては西洋科学技術文明を取り入れた原点である。

 

 現代社会は、思想とか信仰というものが、人間の心性の中に深く根ざしたものとして把握されるのではなく、洗脳という形で個人の中に注入される<イデオロギー>と化している。それは人格破壊を招く機械的な洗脳と言う恐ろしさを持っている。<狐憑き>ならぬ<イデオロギー憑き>なのである。

 

 教義・教条とかイデオロギーが人格から分断され洗脳という形で多くの人々を支配した時の恐ろしさは、共産支那や旧ソ連そして北朝鮮などという社会主義国家のこれまでの歴史を見れば明白である。

 

 日本民族の生活態度の基本的特質、言い換えれば日本人の文化感覚を回復することが、こうした危険な状態を是正する唯一の道である。日本伝統精神が今後の世界においても実に大きな価値を持つのである。    

 

 近代科学技術文明は、自然を恐れず、自然を征服し作り替え破壊することによって、人類の進歩と発展を図ってきた。しかしその結果、公害問題が深刻化するとともに核戦争の危機にさらされ、今日人間生活そのものが荒廃し、人類は破滅に向かって歩み始めている。

 

 これを打開するためには、自然に調和し大らかにして柔軟な日本伝統精神に回帰する以外にないのである。

 

 樋口清之氏は「日本人は、一般的傾向として、経験的な知恵や合理的知識をを分析や説明をこえた先験的・信仰的なとらえ方で身につける。このため近代分析科学的な理解方法しか身につけていない人からは、前近代的な迷信だと誤解されることもある。しかし分析に対する総合、対立に対する調和という伝統的な思考の中に、先人の生きざまの英知を各所で発見するのである。」(自然と日本人)と論じている。

 

 今日の世界は、これまでの組織された体系を持つイデオロギーや教義では救い得ない末期的状況にあると言っていい。古い体系は次々に崩壊しつつある。我々の目標は、まともな日本を回復するために、日本の伝統精神の英知を取り戻さねばならないのである。繰り返し言うが、日本の伝統精神とは、イデオロギー・教条ではない。日本の自然と風土と生活の中から生まれた日本民族の自ずからなる歴史の精神である。

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