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2016年10月15日 (土)

天皇と国民と国土は霊的・魂的に一体の関係にある

日本国家の神話的起源思想の特色は、国家成立の三要素たる君主、国土、人民が、神霊的・血統的に一体であるところにある。即ち「皇祖神たる天照大神」と「国土」と「国民の祖たる八百万神」が、伊耶那岐命・伊耶那美命から生れでた「はらから」といふ精神にある。

 

『古事記』の「国生み神話」には次のやうに語られてゐる。伊耶那岐命は伊耶那美命に「我が身は成り成りて、成り余れるところ一処あり。故(註・かれ。だからの意)この吾が身の成り余れる処を、汝が身の成り合はぬ処に、刺し塞(ふた)ぎて、国土(くに)生みなさむと思ふはいかに」とのりたまふた。

伊耶那岐命が「国土(くに)を生みなさむ」と申されてゐるところに日本神話の素晴らしさがある。中西進氏は、「(世界各地の神話は・註)人類最初の男女神は、人間を生んでいる。國を生むのではない。ところが、日本神話ではそれが國生みに結び付けられ、国土創造の話に転換されている。これは日本神話の特色で…」(『天つ神の世界』)と論じられてゐる。

 

岐美二神は、単に大地の創造されたのではなく、国土の生成されたのである。太古の日本人は劫初から、国家意識が確立してゐたのである。世界の他の国よりも我が国は国家観念が強かったといへる。この場合の「国家」とは権力機構としての国家ではないことは言ふまでもない。

 

岐美二神はお互ひに「あなにやし、えをとめを」「あなにやし、えをとこを」(『本当にいい女ですね』『本当にいい女ですね』)と唱和されて、国生みを行はれた。二神の「むすび」「愛」によって国土が生成されたのである。国土ばかりではなく、日本国民の祖たる八百萬の神々もそして自然物も全て岐美二神の「むすび」よって生まれたのである。日本神話においては、天地が神によって創造されたのではなく、岐美二神の「愛・むすび」によって国土が生まれたのである。日本といふ国家は、人の魂が結び合って生まれてきた生命体なのである。日本民族の農耕を中心とする伝統的生活のから培はれた信仰(自然信仰と祖霊崇拝・自然と祖霊を神として拝む心)が根幹となって生まれてきた生命体が日本国なのである。そしてその〈むすび〉の中核が日本伝統信仰の祭祀主である天皇である。これが「祭祀国家」「信仰共同体」としての日本なのである。

 

「むすび」の語源は、「生()す」である。「草が生す」「苔が生す」といはれる通りである。つまり命が生まれることである。故に親から生まれた男の子を「むすこ」(生す子)と言ひ、女の子を「むすめ」(生す女)と言ふのである。

 

「むすび」とは命と命が一体となり緊密に結合することである。米のご飯を固く結合させたものが「おむすび」である。そして日本伝統信仰ではその米のご飯には生命・魂が宿ってゐると信じてきた。

 

「庵を結ぶ」といふ言葉があるが、日本家屋は様々な材木や草木を寄せ集めこれらを結び合はせて作られた。結婚も男と女の結びである。故にそのきっかけを作った人を「結びの神」と言ふ。そして男女の〈むすび〉によって新たなる生命が生まれる。日本の家庭も〈むすび〉によって成立しているのである。日本国土は、伊邪那岐命と伊邪那美命との「むすび」によって生成されたのである。

 

『古事記』にはさらに、「伊耶那伎大神…筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原に到りまして、禊ぎ祓へたまひき。…左の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、天照大神」と語られてゐる。

 

皇祖神であらせられる天照大神は、伊耶那伎大神から生まれた神なのである。つまり、国土自然の神々、日本国の君主であらせられる天皇の祖先神たる天照大神も、日本国民の祖たる八百萬の神々と同じく伊耶那伎大神から生まれたのである。

 

日本神話では、神と、国・自然・人間は相対立し支配被支配の関係にあるのではなく、同じ神から生まれ、生命的・霊的に「はらから」の関係にあるのである。これが我が国太古からの国土観・人間観・自然観である。

 

ここに日本神話の深い意義がある。神と人とが契約を結び、神は天地と人間を創造し支配するといふユダヤ神話と全く異なる。

 

この神話物語は、日本国においては、君主と国民と国とは対立関係にあるのではなく、同じ神から生まれた「はらから」の関係にあることを示してゐる。

 

村岡典嗣氏は、「(国家の神的起源思想の特色として・註)国家成立の三要素たる国土、主權者及び人民に對する血族的起源の思想が存する。即ち皇祖神たる天照大神や青人草の祖たる八百万神はもとより、大八洲の国土そのものまでも、同じ諾册二神から生れでたはらからであるとの考へである。吾人は太古の国家主義が実に天皇至上主義と道義的關係に於いて存し、天皇即国家といふのが太古人の天皇觀であったことを知る。皇祖神が国土、人民とともに二神から生れ、而も嫡子であると考へられたのはやがて之を意味するので、換言すれば天皇中心の国家主義といふに外ならない。」「日本の國家を形成せる國土(即ち大八洲)と元首(天照大神)と、而してまた國民(諸神)とが、同じ祖神からの神的また血的起源であるといふことである。」(『日本思想氏研究』四)と論じてゐる。

 

国家成立の三要素たる国土・君主・国民は、伊耶那岐命・伊耶那美命二神から生まれ出た存在であり、命の源を一つにする「はらから」である。天皇と国民と国土は霊的・魂的に一体の関係にある。天皇と国民と国土の関係は、対立関係・支配被支配の関係にあるのではない。契約関係・法律関係にあるのでもない。霊的魂的に一体の関係にある。これを「君民一体の国柄」といふ。

 

神話とは、現実の歴史を反映し理想化して描いた物語であり伝承である。また、神話とは、現実の歴史を反映し理想化して描いた物語であり伝承である。日本国の祭祀的統一の歴史が、神話において物語られた。日本国の祭祀的統一の歴史が、神話において物語られた。わが国は、信仰的・祭祀的統一によって形成された国家である。そしてその祭祀主が天皇であらせられるのである。

 

祭祀国家として約三千年の時間的連続・歴史を有してきたことが最も大切な日本国の本質であり、日本國體の尊厳性なのである。わが國體が万邦無比と言われる所以もここにある。

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