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2016年10月21日 (金)

會津藩の悲劇と尊皇精神

日の御子の 御影仰ぎて 若桜 散りてののちも 春を知るらむ

 

飯沼貞吉

 

白虎隊(會津藩校日新館の生徒)自刃は戊辰戦争における悲劇である。自刃の地・會津飯盛山には、白虎隊士・十九人の墓がある。隊士の墓の近くに、この歌が刻まれた歌碑が建てられてゐる。

 

この歌は、白虎隊士の中でただ一人命を取り留めた飯沼貞吉が、大正十三年(一九二四)に、当時皇太子であられた昭和天皇が白虎隊士の墓を親拜されたことに感激して詠んだ歌。

 

「白虎隊士の墓を親拝された日の御子(皇太子殿下)のお姿を仰いで、まだ若桜だった白虎隊士は、桜の花が散る如く散華した後であっても、やっと春を知ったであらう」といふ意。

 

飯沼貞吉は、嘉永七年(一八五四)三月二十五日に生まれた。會津戦争の時、白虎隊士となった貞吉は、皆に遅れじと咽喉に脇差を突き立てたが、死にきれずにいたところを、救出された。維新後は、逓信省通信技師となり、日清戦争に陸軍大尉として従軍(大本営付技術部総督)。昭和六年(一九三一)二月十二日、七十七歳で亡くなった。

 

飯沼貞吉は、昭和三年(一九二八)、旧會津藩主・松平容保の六男で外交官の松平恆雄氏の長女・節子姫が、昭和天皇の弟君・秩父宮雍仁親王殿下とご結婚されたことを奉祝して次の歌を詠んでゐる。

 

「祝 節子姫

よろこびを かはすことばに どよむらん  いいもり山の苔の下にも」

(ご結婚の喜びを交はす言葉が響いてゐるであらう。白虎隊士が眠る飯盛山の苔の下にも)といふ意。

 

「朝敵」の汚名を蒙った松平容保の孫であられる節子姫が、皇室に嫁がれたことを白虎隊士の御霊も心の底から喜んでゐるであらうといふ歌である。

 

妃殿下は、貞明皇后の御名「節子(さだこ)」との同字を遠慮し、「伊勢」と「會津」から一字づつ取り「勢津子」に改めたと承る。

 

飯沼貞吉のこの二首の歌はどちらも、戊辰戦争によって會津藩が蒙った「賊軍」「朝敵」の汚名が晴れた喜びの心を美しく歌ってゐる。

 

秩父宮雍仁親王殿下・勢津子妃殿下御成婚の時は、會津の人々は「朝敵の汚名が晴れた」と提灯行列をして歓喜した。

 

會津藩最後の藩主松平容保は、幕末期に京都守護職に任じられ、朝廷の御守護と皇都の治安維持の大任を仰せつかった。孝明天皇の御意志は、「公武一和」(朝廷と幕府が相和し國難に当たること)であった。

 

文久三年(一八六三)に起きた「八月十八日の政変(急進的尊皇攘夷論者の公家及び諸藩士たちによる討幕計画が失敗した事件)」が沈静した後、孝明天皇は、京都守護職・松平容保に、

 

「堂上以下暴論を疎(つら)ね、不正の処置増長につき痛心耐へ難く、内命を下せしところ、速やかに領掌し憂患掃攘朕が存念貫徹の段、全くその方の忠誠にて、深く感悦のあまり、右壱箱を遣はすものなり」

との御宸翰と

「たやすからざる世に、武士の忠誠のこゝろをよろこびてよめる

 

 和(やは)らぐもたけき心も相生のまつの落ち葉のあらず栄へむ

 

 武士(もののふ)と心あはしていはほをもつらぬきてまし世々のおもひで」

 

との御製を賜った。

 

松平容保は討幕を呼号する薩摩長州土佐などの志士たちを厳しく取り締まった。このことが深い恨みを買ひ、戊辰戦争において、會津藩が恭順の意を表した後も、新政府軍に攻撃され、會津若松城は落城し、松平容保は、各地流謫の難に遭ふ。

 

容保はこの御宸翰と御製を収めた筒を、明治二十六年(一八九三)五十九歳で亡くなるまで、首に懸けて離すことはなかったといふ。

 

明治維新といふ大変革の歴史の流れにおける悲劇と言ふほかはない。松平容保は、孝明天皇の深い御信任を得てゐた。ところが、薩長など維新を推進した側から見ると、松平容保による新撰組などを用いた徹底弾圧は許し難い出来事だった。

 

しかし、一君萬民・萬民和楽の國體であるわが日本は、何時までも、一部地域に「朝敵」「逆賊」の汚名を着せたままにすることはなかった。昭和天皇の白虎隊士の墓御親拝、秩父宮同妃両殿下御成婚はそれを象徴してゐる。そのことを喜んだ飯沼貞吉の歌も會津人の「尊皇精神」を象徴してゐる。

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