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2016年9月 8日 (木)

今日に於いて永井荷風の文明批評に學ぶことは多い

 

永井荷風は、日本の風土と自然を愛し、西洋化による破壊に憤怒した。荷風は言ふ。

 

「日本都市の外觀と社會の風俗人情は遠からずして全く變ずべし。痛ましくも米國化すべし。…然れども日本の気候と天象と草木とは黒潮の流れに浸されたる火山質の島嶼が存する限り、永遠に初夏晩秋の夕日は猩々と緋の如く赤かるべし。永遠に中秋月夜の山水は藍の如く青かるべし。椿と紅梅の花に降る春の雪はまた永遠に友禪模様の染織の如く絢爛たるべし。婦女の頭髪は焼鏝をもて縮らさゞる限り、永遠に水櫛の鬢の美しさを誇るに適すべし」(『江戸藝術論』・大正二年)。「慶應義塾大學大阪講演會へ參る爲め今朝東京出發。琵琶湖上に夕陽を眺め三日月の沈む頃京都に下車して丸山のほとり目立たぬ一旅亭に宿泊仕候。家の造り庭のありさまなぞ一度此都に來れば小生は深く日本を愛し日本に感謝する熱情の轉(うたた)切なるを覺え候。飜って思へば東京の現状ほど人をして絶望悲憤の境に陷らしむる處は無御座候。銅像と安煉瓦造りは重々國民の精神に宜しからぬ感化を與ふるものに御座候」(『大窪だより』大正二年)

 

荷風は、いかに日本人の生活が西洋化しやうとも、美しき日本は永遠であると自らに言ひ聞かせてゐる。しかし悲しむべきは、現代日本は、グローバル化などと言って、政治・経済・文化などすべての面に於いて、明治日本よりも激しく日本の傳統や独自性を隠滅し破壊しアメリカ化しやうとしてゐる。

 

自然環境はそこに住む人々の思想・精神に大きな影響を与へる。日本の傳統精神は麗しき日本の自然から生まれて来たのである。故に日本の傳統を護らむとすれば日本の自然を護らねばならない。日本的変革即ち維新は、政治経済體制を変革するのみではない。その根本に精神の変革がなければならない。

 

日本固有の美、傳統信仰、秀麗なる日本の山河・自然を愛する心を涵養することが根本である。西洋科學文明・グローバル化によって隠蔽されつつある日本の傳統美を護り再生せしめることこそ、現代救済の原理である。日本の自然美・傳統美をこよなく愛し、國語文化即ち美しき日本文を書きのこした永井荷風は、近代日本における偉大なる文人であった。

 

わが日本は、本来的にその持てる文化的力によって世界を救済すべき使命を有する國である。しかし、日本自らがその「文化的力」を忘却し隠蔽してゐる。荷風の憂へた状況は今日の日本に於いてますます深くそして激しくなってゐる。今日に於いてこそ、永井荷風の文明批評に學ぶことは多いと考へる。

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