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2016年2月15日 (月)

『文字の力・書のチカラー書の流儀』展を参観して

二月十二日に参観した出光美術館主催の『文字の力・書のチカラー書の流儀』展は、「『書』の世界は、多岐にわたっています。美術・芸術の場で飾られる作品ばかりでなく、文学・歴史・文化など各分野から手向けられる眼差しとも深く関わり合っています。一見、豊かに広がって見えるこの世界ですが、一般に『書』とは筆文字全般をさす用語として曖昧に理解されていることも確かです。本展では、このようにどこか混沌とした『書』の世界を新たな視点でとらえ直し、我が国における『書』の多様な魅力を探ります。テーマは『流儀』。書体、書式といった伝統的なルールの基本から、表現の特徴や書き手の思想にいたるまで、『書』のイロハと奥行きが実感できる会場をお楽しみ下さい」(案内書)との趣旨で開催された。

 

「筑後切 伏見天皇 鎌倉時代」、「中務(なかつかさ)集 傳西行 平安時代」、「鳳輩道上詩 木戸孝允 明治元年」、「禅院額字 選佛場 無準師範 中国・南宋時代 重要文化財」、「継色紙 伝 小野道風 平安時代 重要文化財」、「高野切第一種 伝 紀貫之 平安時代 重要文化財」、「水草下絵三十六歌仙和歌色紙 松花堂昭乗 桃山時代」、「笠置山詩 頼山陽 江戸時代」、「日課念佛 徳川家康 慶長十七年」「一行書 賓中主々中賓 江月宗玩 江戸時代」、「定頼集 藤原定家 鎌倉時代」、「高野切第一種 傳紀貫之 平安時代」、「和歌色紙 後陽成天皇 桃山時代」などを参観。

 

文字を書くという営為は、日常のことである。しかし、漢字平仮名カタカナは、美術作品としての価値を生む。わが国においては、カタカナ・平仮名という表音文字と、漢字という表意文字の両方を文字として用いている。表音文字だけの欧米諸国、表意文字だけの支那とはそこが大いに異なっている。情報量も多いし、表現能力が高い。そして、筆でそれを書き表すと、とても素晴らしい美を生み出す。それが書道藝術である。

 

上手な字と、下手な字、あるいは美しい字、そうではない字の違いは、見ればわかる。最近は、ワープロというものが発達して、文字を手書きで表現することが余りなくなった。私も、手紙・論文などはワープロで書くようになってしまった。しかし、夜寝る前に書く日記そしてその時に詠む和歌はさすがに手書きで書く。和歌をワープロで詠もうとすると、どうしても良い歌が出て来ない。不思議なことである。大学時代、書道専攻コースをとったが、卒業後、墨字を書く機会は減ってしまった。

 

今回の展覧会で興味をそそられた作品は、木戸孝允の「鳳輩道上詩」である。「掃尽千秋帝土塵 旭輝自与岳光新 東巡今日供奉輩 多是去年獄裏人」と書かれている。明治元年に書かれた「書」である。木戸孝允の「書」は初めて見たが、大変に力強く生き生きとに書かれている。江戸開城から半年を経た明治元年十月十三日、明治天皇が初めて江戸に行幸された折、供奉した木戸孝允がその感激を詠んだ漢詩であろう。私なりに訳してみると、「永い間の日本国の塵を祓い尽くし、朝日は輝いて富士山の光も新しい、東国への御巡幸が行われている今日、そのお供をする者どもの多くは、去りたる年には獄につながれていた人である」という意。

 

尊皇討幕の戦いに挺身した志士たちが、明治天皇に供奉して、江戸に向かっている。その人たちの多くは、幕府によって投獄されていた人々であると詠み、維新成就の喜びを烈烈たる感激で表白したのである。辛酸をなめた長州藩士たる木戸孝允の気迫が迫ってくる。見事なる書である。

 

一方、徳川家康の「日課念佛」という「書」は、「南無阿弥陀仏」という六字名号が書き連ねられている。慶長十七年に家康が日課として細かい字で書いたと言う。関ヶ原の戦いの勝利の後、そして豊臣滅亡の前の時期であり、家康がいよいよ天下の覇者になりつつある時の作品。どういう意図で書かれたのか。戦国の世に斃れて行った多くの人々の霊を慰めたのであろうか。自らの長寿と極楽往生を祈ったのであろうか。おそらく両方であろう。しかし、これは偽作という説もある。

 

徳川家康氏がまさに天下をわがものにする直前の覇者の「書」と、関ヶ原の戦いで敗れ、長い間逼塞を余儀無くされた長州藩の藩士・木戸孝允が、徳川幕府打倒の直後にその喜びを詠んだ「書」を同時に見ることが出来、深い感慨を覚えた。やはり書道藝術は素晴らしい。

 

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