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2016年1月12日 (火)

「もののふの道(武士道)」とは

 「もののふ」とは、「武人・武士」という言葉を「やまとことば(和語すなわち漢語や西洋などからの外来語に対し、日本固有の語)」で言った言葉であり、雅語(上品な言葉。正しくてよい言葉。特に、和歌などに使う、平安時代風の言葉)的表現である。

 

 「やまとことば」の「もののふ」とは、「宮廷を守護する者」即ち「もののべ」の音韻が変化した語である。「もの」とは「もののけ」の「もの」と同じで、不思議な霊力がある存在のことである。「物部氏」という氏族は、もっとも有力な「もののふ」だったという。

 

 物部の原義は、宮廷の妨げをするものを平らげ鎮める働きをする部(群れ・組。世襲的に一定の職業に従事した団体)のことである。物部氏は、古代の氏族の一つで、朝廷の軍事・刑獄のことを司った。古代日本では、霊的力即ち巫術(呪術の一つ。超自然的存在が人にのりうつり、その人を通して話し、行動するもの)を以て戦場に臨み、敵軍を守る精霊を抑圧するものが「もののふ」(物部)であった。

 

 「もののふのみち」とは漢語(支那から伝来して日本語となった語。更に広く、漢字で組み立てて音(おん)で読む語)で言うと「武士道」である。「もののふのみち」は、物部、大伴の二氏によって明確なる史実として表現せられた。

 

 物部氏は饒速日命の後裔で武勇を以て聞こえた家柄で、神武天皇に奉仕し、御東征の折に大和で長髄彦を討って勲功があった。大伴氏と共に宮門を護衛し、軍事を担当した。これが後世武士の起こる濫觴とされている。用命天皇の崩御直後(用命二年・五八七)、仏教受容を唱えた蘇我氏の馬子と物部守屋が争い破れて物部氏は滅びた。

 

 なお、「もののふ」を漢語では、「武士」(ぶし)というのは、折口信夫の説では、野に伏し山に伏して主君のために仕える者であるからという。「ぶし」は「伏し」に通ずるという事であろう。

 

 「もののふの道(武士道)」とは、古代日本においては、宮廷を守護すること即ち皇室に忠誠を尽くすという精神である。それが原義である。日本武尊の御生涯にそれは明らかである。

 

「もののふの道」は、『萬葉集』に収められた次の歌に表白されている。

 

笠金村の歌。笠金村は伝未詳。作歌年代の明らかな歌は、霊亀元年(七一五・元正天皇の御代)から天平五年(七三三・聖武天皇の御代)まで)

 

「もののふの 臣(おみ)の壮士(をとこ)は 大君の 任(まけ)のまにまに 聞くといふものぞ」(三六九・軍人として朝廷に仕える男は、大君の仰せの通りに御命令の通りに聞き従うものであるぞ)。

 

 大伴宿禰三中の歌。大伴宿禰三中は系統未詳。遣新羅副使・摂津班田使(律令制下民に授けられた田んぼである口分田を民に分かち与えるために派遣された官吏)などを歴任。「宿禰」とは、天武天皇の御代に定めた八色姓(やくさのかばね)の第三。臣下を親しんで言った呼び名。この歌は大伴宿禰三中が、部下であった丈夫部龍麻呂(はせつかべのたつまろ)が亡くなった時に詠んだ歌。

 

「天雲の 向伏(むかふ)す国の 武士(もののふ)と いはるる人は 天皇(すめろぎ)の 神の御門(みかど)に 外(と)の重(へ)に 立ちさもらひ 内の重に 仕へ奉(まつ)りて 玉かづら いや遠長く 祖(おや)の名も 繼ぎゆくものと 母父(おもちち)に 妻に子供に 語らひて 立ちし日より…」(四四二・天雲の垂れ伏す遠い国のもののふといわれる人は、天皇が神の如くにおられる皇居で、外の回りを立って警備し、奥庭におそばでお仕え申し上げ、(玉かづら・長居に掛る枕詞)ますます長く祖先の名を継ぎ行くものなのだと、父母に、妻に子供に語って出発した日より…) 

 

 故郷を出発する時の朝廷奉仕の確固たる覚悟が、上司の三中によって歌われている。「天雲の 向伏(むかふ)す国」は、「遠い国」につく慣用句で自殺した丈夫部龍麻呂の出身地のこと。東国の出身であったらしい。

 

 「もののふ」はこの場合は原文(萬葉仮名)に「武士」とあり、皇居を警備する武官を念頭に置いた。天皇の神の御門は現御神信仰に基づく言葉。

 

 「さもらふ」は様子を伺い機を待つという意であるが、この「さもらひ」の女性語が「さむらふ」(目上の人に側に仕えること)。この言葉から「さむらひ」(武士)という言葉が生まれた。

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