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2015年12月 6日 (日)

「天皇はわが國の君主であり、わが國は立憲君主國である」

「天皇はわが國の君主であり、わが國は立憲君主國である」といふ明々白々たる事実、わが國建國以来の國體否定につながる論議をする政治家が、大正生まれの政治家、それも政府与党の枢要な地位と役職を経験して来た政治家にも存在した。

 

内閣官房副長官といふ官僚の最高位に昇りつめ政治家としても内閣副総理といふ枢要な地位についた後藤田正晴氏は、國務大臣などの政治家は天皇の臣下ではないといふ意識の持ち主である。後藤田氏は平成十二年十二月五日号の『日本経済新聞』で、中央省庁の再編に関するインタビューに答へて、「まず大臣という名前を変えたらどうか。誰の臣下ですか?行政の長なんだから『長官』でいい」と述べた。

 

これは天皇を君主と仰ぐ建國以来のわが國國體を否定し、現行占領憲法体制下においても、わが國は立憲君主制であるという自明の理を否定する発言である。

 

後藤田氏はまた、「私が役人になった戦前は天皇制であり、当時は官吏といわれていた。…統治権を構成している一員の立場にあり、一方、國民は被治者の立場にあった。…ところが現在は新しい憲法によって國民主権が確立し、役人は全体の奉仕者つまり國民に対してサービスを提供する立場にある。戦前と比較すれば、主客転倒した関係になった」と述べてゐる。(『政治とは何か』)

 

さらに、元内閣総理大臣の中曽根康弘氏は次のやうに述べた。

「中曾根康弘 私は國民投票による首相が望ましい姿だと思っています。中曾根内閣はいわゆる大統領的首相の手法でやったのです。というのは、いまの憲法上の首相の地位も、アメリカの大統領より強いですよ。最高裁裁判長も閣議で推薦するとか、自衛隊の最高司令官になっているとか、國會の多数党の首領になっていればアメリカの大統領より権限は強いのです。しかし、それをよう使いませんね。それは吉田茂さんに罪がある。あの人は戦前の総理大臣のイメージが頭から消えきれなかった。つまり、天皇を上に置いて、同輩中の首席的総理大臣というイメージですね。だから『臣茂(しん・しげる)』と言ったわけですよ。そういう戦前の古い陋習の総理大臣というイメージを、吉田さんは持っていた。天皇の権威を維持するために、臣茂が一番いいのだと思ったのではないでしょうか。しかし私に言わしめれば、それが間違いなのです。主権はいま國民に在って、天皇ではないのですからね。総理大臣はそういう意味で、そうとうな責任と権限を持っている。だから、思い切ってやればいいのです。天皇は、歴史と傳統と文化による権威を持ち、首相は政治的権力を持つ。(JUSTICE 平成十三年三月十九日号)

 

これは後藤田氏以上に重大な発言である。中曽根氏は、「主権は天皇にはなく國民にある。総理大臣は天皇陛下の臣下ではない。総理大臣が天皇陛下の臣下だといふ思想は戦前の古い陋習である」と主張してゐるのである。

 

ところが中曽根氏は、通産大臣だった昭和四十八年六月五日、参議院内閣委員會で、「自分は過日イラン訪問の際、イラン首相に『日本はアジアの東にあって王制の國です。あなた方はアジアの西にあって同じく王制の國で、ともに古い傳統をもってゐる』と言った」と発言した。

 

一体中曽根氏の本心はどちらなのであらうか。中曽根氏がかつて言った通り日本國は「王制」(正しくは立憲君主制)であるのだから、吉田茂内閣総理大臣が『臣茂』と言ったのは当然である。國家存立の最も重要な問題で主張が文字通り[風見鶏]のやうにコロコロ正反対に変化するのはまことに遺憾である。

 

後藤田正晴氏は、大正三年八月九日生まれ。昭和十四年、東京大學法學部卒。中曽根康弘氏は、大正七年五月二十七日生まれ。昭和十六年、東京大學法學部卒。お二人とも大体同年代でしかも内務官僚であり、軍隊経験もあり、同じやうな人生経歴である。社民党・共産党・極左分子がこのやうな発言をするのならまだしも、警察庁長官・内閣官房長官・自治大臣・内閣副総理を歴任し、官僚・政治家の頂点に立った後藤田氏、そして、内閣総理大臣といふ権力の頂点に上り詰め大勲位まで頂いた中曽根氏といふ「保守政治家」の典型と言っていい二人の人物がこのやうな発言をしたのである。

 

大正五年生まれで、京都大學法學部卒業、昭和十四年内務省採用、宮内庁総務課長、京都府警察本部長、近畿管区警察局長を歴任された大野健雄氏の著書に『なぜ天皇を尊敬するのか─その哲學と憲法』がある。大野氏は後藤田・中曽根両氏と大体同年代で同じ内務官僚である。後藤田・中曽根両氏と同じく軍隊経験もある。大野氏はこの書物において後藤田・中曽根両氏とは全く正反対の正統なる國體論・天皇論・憲法論を展開されてゐる。

 

大野氏はその著書において次のやうに論じてをられる。「天皇は君主である。…(ところが)君主ではないなどという日本人がいるので事がややこしいのである。それも精神病院にでもいるというのなら話は分るが、一応世間的には學者という事になっている人物なのでまこと慨嘆に堪えない訳である」と論じてゐる。

 

「世間的には學者という事になっている人物」のみならず「世間的には政治家それも内閣総理大臣・内閣副総理といわれた人物」にも、天皇は君主ではあらせられないと思ってゐる人物がゐるのである。まことにもって慨嘆に堪へない。

 

宮沢俊義・清宮四郎両氏が「天皇が『君主に共通な標識』を持ってゐないから、天皇は君主ではなく日本國は君主制ではない」と説いてゐることについて大野氏は、「宮沢、清宮両氏の標識と称するものも…ヨーロッパ諸國の君主について、歴史上見られたと思われるものを抽き出したもので別に大した権威のあるものとは思われず…我が日本の國に適用せらるべき標識とは思われない。」と論じてをられる。

 

ちなみに、宮沢俊義氏のいふ『君主に共通な標識』とは「a独任機関であること b統治権の主要な部分、少なくとも、行政権を有すること、c対外的に國家を代表する資格を有すること d一般國民とは違った身分を有し、多くの場合その地位が世襲であること eその地位に傳統的ないしカリスマ的な威厳が伴うこと f國の象徴たる役割を有すること」であるといふ。

 

大野氏は、「天皇は立法権に対しては日本國憲法第七条の國會の召集権、衆議院の解散権をお持ちになり、六条によって行政府の長たる内閣総理大臣を任命し給い、さらに司法に対しては最高裁判所の長たる裁判官を任命し給う。これ等は統治権の最も重要な部分と言わずして何ぞや。…天皇の権威にして初めて有効になし能うのであって、天皇以外何人もなし得ないものである。」

(外國大公使の接受)とは外國の代表である大使公使の信任状の奉呈を受け給うことを含む極めて重要な天皇の大権であり、単なる儀礼的なことではない」

「十九世紀のヨーロッパの覆滅常ならざる諸君主に共通すると称する標識の解釈によってはじめて君主であらせられるのではなく、天皇は太古以来『おおぎみ』にましまし、君主でない天皇など日本國民にとって夢想だにできるものではない。」

「前述の標識の如きは、本来天皇が勿論君主であらせられることを大前提としてそれに適合するような解釈を施すべきであり、もしそれが困難な標識ならば標識の方が間違っているものとして捨て去るべきである。…天皇はもとより君主にましまし、わが國は日本國憲法のもとにおいても立憲君主國であって、象徴的君主制ということができよう。」

と論じてゐれる。まさに正論である。

 

今日、グレートブリテン・北アイルランド連合王國(イギリス)、スウェーデン王國、オランダ王國など自由民主政治が行なわれている國の君主は、いふまでもなく専制君主ではない。また政治的実権を持っていない。しかし、國民から君主と仰がれてゐる。「政治的実権を持たないから君主ではない」などといふことはない。

 

日本天皇の「憲法上の御地位」は、独任機関であり、國事行為といふ統治権を有し、対外的に國家を代表する資格を有し、一般國民とは違った身分を有し、その地位はいはゆる世襲であり、傳統的な威厳が伴ひ、國の象徴たる役割を有してゐる。「現行占領憲法」上の天皇の御地位も、宮沢俊義・清宮四郎両氏がいふ『君主に共通な標識』を十分に充たしてゐる。

 

「現行憲法」においても、天皇が君主であり日本國は立憲君主國であるといふことはあまりにも明白な事実である。ただし、わが國を弱体化する事を目的として銃剣の圧力で押し付けられた「現行占領憲法」の『天皇条項』が日本國體の真姿を正しく明確に成文化してゐるとはいへない。だから、宮沢俊義・清宮四郎両氏のような「天皇が『君主に共通な標識』を持ってゐないから、天皇は君主ではなく日本國は君主制ではない」といふ解釈が生まれるのである。

 

天皇は近代成文法以前から君臨されてきた日本國の神聖なる君主であらせられる。日本國の國體が隠蔽されてゐる状況を是正し、さらには國體破壊を防ぐめには、天皇は日本國の君主であらせられ日本國は立憲君主國であることを明確に期待した成文憲法に回帰すべきである。天皇は、信仰共同体日本の君主・祭祀國家日本の祭祀主であらせられ、國家と國民を統合される神聖にして至高の御存在であるといふ古代以来の國體を正しく規定した憲法を回復すべきである。

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