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2015年10月12日 (月)

「きこしめす」「しろしめす」が、天皇の國家統治の基本

天皇の統治とは「世論や公論をよく聞く」ことであることは、天皇統治を「やまとことば」で「きこしめす」「しろしめす」と申し上げることによって明らかである。

 

三潴信吾氏は「帝國憲法第一条の『統治ス』は、政治に限らず、國家・國民の活動の一切にわたっての根源者、総親たらせ給ふの意で、ここでいふ『統治』は権力作用たる『統治権』のことではない。日本古来の傳統的『やまとことば』で云ふ『しろしめす』のことである。」(『日本憲法要論』)と論じておられる。天皇が日本國を統治されることは、決して権力によって國家國民支配されることではない。

 

では、「やまとことば」の「きこしめす」「しろしめす」(「しらしめす」とも言ふ)とは一体いかなる意義なのであらうか。「きこしめす」とは「聞く」の最高の尊敬語である。「しろしめす」は「知る」の最高の尊敬語で、「聞こす」「知らす」にさらに「めす」といふ敬意を添へる語を付けた言葉である。

 

『續日本紀』に収められてゐる文武天皇の宣命には「現御神と大八島國知ろしめす天皇」とある。また『萬葉集』では「御宇天皇代」と書いて「あめのしたしらしめししすめらみことのみよ」と読んでゐる。

 

この場合の「聞く」「知る」とは単に知識を持ってゐるといふ意ではない。もっと深い精神的意義を持つ。天下の一切のことを認識し把握するといふほどの意であらう。

 

天下の一切の物事を「お聞きになる」「お知りになる」といふことは、祭祀を行ふ時の〈無私〉の境地で一切のことをお知りになるといふことであり、天下の一切の物事に対して深い〈慈愛の心〉を持たれてゐるといふことである。〈無私〉と〈慈愛〉の心が無くては、対象を深く認識し把握する事はできない。

 

「きこしめす」「しろしめす」は、天皇が鏡の如く「無私」の御存在であり、萬民を限りなく慈しみたまふ御存在であるから可能になる。天皇が鏡の如く全てを映し出す「無私の御存在」であればこそ、全てを了知されることができるのである。天皇國家統治の「みしるし」である「三種の神器」の一つが「鏡」であるのはそのことをあらはしてゐる。天皇は自己を鏡となして一切のものごとを映し出される御存在である。

 

近代日本の哲學者・西田幾太郎氏は、「知と愛とは同じである」と言った。知ることと愛することは一体である。対象を愛することなくして、対象の本質を正しく知ることは出来ない。

 

愛とは捨身無我である。自分を相手のために捧げるのが愛の極致である。自分を無にしなければ本当に相手を知ることは出来ないし、愛することもできない。天皇陛下の國家統治は、ご自分を無にされて天下萬民を愛されることなのである。それは無私になって神を祭る心と一体である。

 

先帝昭和天皇陛下が、よく「あっそう」といふお言葉をお発しになられたのは、まさに無私と慈愛の心で國民の言ふ事をお聞きになられお知りになったといふことである。有難き限りである。

 

明治天皇は、『五箇条の御誓文』と共に発せられた『億兆安撫國威宣布ノ宸翰』において、「今般朝政一新の時に膺(あた)り、天下億兆一人も其處を得ざる時は、皆朕が罪なれば、今日の事、朕、躬ら身骨を労し心志を苦め、艱難の先に立ち、列祖の盡させ給ひし蹤を履み、治績を勤めてこそ、始めて天職を奉じて,億兆の君たる所に背かざるべし」と仰せになってゐる。明治維新は、「一君萬民」の國體開顕、即ち國民を重んじ國民の幸福實現を最高の目的としたのである。

 

『大日本帝國憲法』において「しらしめす」「きこしめす」の漢語表現として「統治」といふ言葉を用いた。そしてこの「統」といふ言葉は統べる(統一する)といふ意であり、「治」は治める(本来の位置に置く)といふ意である。「天下億兆一人も其處を得ざる時は、皆朕が罪なれば…」といふお言葉こそまさしく「治める」の本質である。無私と慈愛といふまさに神の如き御心で日本を統治されるお方が日本天皇であらせられるのである。

 

國民の心をよく「きこしめす」「しろしめす」ことが天皇の國家統治の基本である。そしてそれは議會を開き、「公議を竭す」ことと同意義である。

 

「天皇中心の日本國體の回復」と「天下萬民の公議を竭す政治」が明治維新の目指した國家体制の二本柱であった。

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