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2015年2月 7日 (土)

「素直な心」「そのままの心」「無私の心」が日本民族固有の精神である

 『大和心』『大和魂』とは、儒教・仏教などが入ってくる以前からの、日本人本来のものの見方・考へ方、即ち日本民族固有の傳統精神のこととして間違ひではあるまい。その『大和心』を短歌形式で表白した歌が次の歌である。

 

 敷島の大和心を人問はば朝日ににほふ山櫻花

 

 近世の國學者・本居宣長の歌である。「大和心をどういふものかと人に問はれたら、朝日に美しく映える山櫻だと答へやう」といふほどの意である。

 

 「朝日ににほふ山櫻花」は何とも美しい。それが大和心なのだと宣長は言ふ。朝日に美しく映えてゐる山櫻は理屈なしに美しい。さういふ美しさを大和心に譬へてゐる。そして宣長は、日本人の中核的性格=大和心の本質をなすものは、理知ではなく、素直なる心、鋭敏な感受性を備へた純粋感情であるとした。

 

神の生みたまひし美しい國に生まれた日本人は、美しいものを見たら素直に「美しい」と感動する。その「素直な心」「そのままの心」「純真無垢の心」「無私の心」が、日本民族固有の精神即ち大和心である。

 

物事に素直に感動する心を「もののあはれ知る心」ともいふ。それは、理智・理屈・理論ではない。一切の先入観を取り除いた心である。大和心即ち日本傳統精神は、純粋な感性である。嘘の無い心即ち「真心」である。大和心即ち日本傳統精神は、誰かによって作られた思想體系や理論體系ではなく、純粋な感性である。嘘の無い心即ち「真心」である。

 

しかしながら、日本人はただ単に感覚的に美しいものを好むのではない。日本人の「真心」は一種の厳粛さ・神々しさを伴ふ。古代日本人にとって、櫻の花に限らずすべての花や草木は宗教的・神秘的存在であった。「花」(ハナ)の語源は、端(ハナ)即ち、物の突き出した所、はし(端)であると共に、幣(ハタ)・旗(ハタ)であったといふ。「幣」とは、神に祈る時に捧げ、また祓ひに使ふ、紙・麻などを切って垂らしたもので、幣帛(へいはく)・御幣(ごへい) とも言ふ。日本人は、櫻の花を素直に美しく感ずると共に、櫻の花にある神秘性・神々しさに畏敬の念を持った。

 

日本の傳統的な行事である「お花見」の起源は、生命の盛りである花の下に人間が入ることによって、花の精気が人間に移り、自分自身の生命を豊かにするといふ信仰である。

 

「朝日ににほふ山櫻花」の美しさは神々しさの典型である。宣長は、日の神の神々しさをたたへてゐるのである。そこにわが國民信仰の根幹である太陽信仰(天照大神への信仰)があり、神の命に対する畏敬の念がある。

本居宣長は、『たまかつま五の巻』において、「つひにゆく道とはかねて聞しかどきのふけふとは思はざりしを、契沖いはく、これ人のまことの心にて、をしへにもよき歌也、後々の人は、死なんとするきはにいたりて、ことごとしきうたをよみ、あるは道をさとれるよしなどよめる、まことしからずして、いとにくし、……この朝臣(註・在原業平)は、一生のまこと、此歌にあらはれ、後の人は、一生の偽りをあらはして死ぬる也といへるは、法師(註・契沖のこと)のことばにもにず、いといとたふとし、やまとだましひなる人は、法師ながら、かくこそ有けれ」(『最後には行かなくてはならない死出の道だとは、かねて聞いて知ってゐたけれど、昨日今日と差し迫ってゐやうとは思はずにいたもの』といふ歌について、契沖は言った。この歌は人の真實の心であって、教訓とするにもよい歌である。後々の世の人は、死なうとする間際になってものものしい歌を詠み、あるいは道を悟ったことなどを詠む。真實はさうではないので、大変気に入らない。……在原業平朝臣は、一生の真實がこの歌に表現され、後の世の人は一生の偽りを表現して死ぬのだと言ったのは、僧侶の言葉にも似ないで大変に尊いことだ。やまとだましひの人は、僧侶ではあっても、このやうなことがあるのだ)と論じてゐる。

 

『伊勢物語』の結びに据ゑられてゐる在原業平の「つひにゆく」の歌は、死に直面した時の心をこれ以上素直な言葉はないと思はせるくらい素直に表現してゐる。まさにそのままの心・自然な心・真心の表白である。その真心・そのままの心・素直な心が「やまとだましひ」であると宣長は言ふのである。それはまた日本人の代表的美感覚である「もののあはれ」(物事に素直に感動する心)にも通じる心なのである。

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