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2015年2月25日 (水)

「 き こ し め す 」 と 「 し ろ し め す 」 

 天皇の国家統治の「統治」という言葉は言うまでもなく漢語即ち支那の言葉である。<やまとことば>ではまた「統治」のことを「きこす」「きこしめす」(「聞く」の尊敬語)「しらす」「しろしめす」(「知る」の尊敬語)とも言う。

「天皇が日本国の全てのことを知りたまい聴きたもう」ということが「統治」なのである。祭り主たる天皇が民の心を知りそれを神に申し上げ、さらに神の心を承って民に知らしめることが天皇の国家統治の本質である。このことによって「君と民とは相対立する存在ではなく、精神的に一体の関係にある信仰共同体」としての日本国が成立する。

 

 天皇統治は、天の神の御委任により天の神の地上における御代理としての天皇が天の下をお治めになるという雄大なる神話的発想に基づくのである。漢字表現は支那のものであっても、信仰自体は日本固有のものであって、神話時代より継承されてきたのである。人為的に権力・武力によって民と国土を治めるのではなく、あくまでも神の御心のままに宗教的権威によって国民と国土を治めるというのが天皇の国家統治である。

 

日本を統治するために天の神の命令により天から天降られた天孫邇邇藝命の父にあられ、天照大神が邇邇藝命の前に地上に天降らせようとした神を正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)      と申し上げる。さらに、神武天皇の御子・綏靖天皇を神沼河耳命(かむぬなかはみみのみこと)と申し上げる。日本国の統治者・君主は「耳で聞く」ことを大事にされていたので「耳」という御名を持たれたと思われる。

 

 『古事記』には仁徳天皇の世を聖帝の世というと記されている。仁徳天皇は、高い山に登って四方の国をご覧になり、「国の内に炊煙が立たないのは国民が貧しいからだ。これから三年間国民から税金を取るのをやめよう」と仰せられた天皇で、聖帝と讃えられた。

 

 日本思想体系『古事記』の「補注」において佐伯有清氏は、「(聖帝の仼)『聖』とは、耳と呈(貞即ち正)から成り、耳聡く聞き分ける人、神秘的な洞察力のある人物。農耕社会では時候の推移を洞察して農事を指導することが、対立する主張を聴取して調整することと共に、王たるべき者の責務であるから、聖と王とは結びつきやすい」と論じている。また『角川当用漢字字源辞典』(加藤常賢・山田勝美著)によれば、「意味を表わす『耳』と『口』と、音を表す『壬』とからなる形声字。…耳の穴がよく開いていて普通人の耳に聞こえない神の声の聞こえる意。…古代社会においては、普通人の聞きえない神の声を聞き分けうる人を『聖』と呼んだものであろう」という。

 

 一般人が聞きえないことを聞く人というのは、聴覚器官が普通の人より発達している人ということではなく、神霊の声を聞く人ということであり、祭り主ということである。神の声を聞いて民に伝え、民の声を聞いて神に申し上げるという神と人とをつなぐ役目を果たされる祭り主が天皇のなのである。

 

 また、<やまとことば>の「ひじり」(漢字では聖と書く)とは、「日を知る人」の意であるという。日とは文字通り太陽のことであり、天体の運行に通暁している人のことである。天体の運行即ち暦は農業にとってきわめて重要である。これを知っている人は農耕国家の君主たる資格を持つのである。また「日」は「霊」であり、「ひじり」は「霊力を有する神聖な存在」という意味でもある。

 

 『萬葉集』に収められた「近江の荒れたる都を過ぎし時、柿本人麿朝臣の作れる歌」という長歌の冒頭に、「玉だすき 畝傍の山の 橿原の 日知の御代ゆ 生れましし 神のことごと つがの木の いやつぎつぎに 天の下 知らしめししを…」とある。これは「(『玉だすき』は畝傍にかかる枕詞仼)畝傍の山の橿原に都を開かれた日知りにまします(神武天皇の仼)御代以来、(『つがの木』はつぎにかかる枕詞仼)この世に降臨された現御神はことこどくみな天下を御統治になられたが…」というほどの意である。

 

ここにも「日知り」という言葉が登場する。本居宣長は、「日知り」を「日の如くして天下を知らしめすといふ意なるべし」としている。「日の神・太陽の神の如くわけへだて無く天下を統治される天皇の御代」を「日知りの御代」と言ったのである。

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