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2014年4月 8日 (火)

日本人の言靈信仰が「やまと歌」を生んだ

日本人の伝統精神がやまと歌の形で表現されている日本最大の歌集『萬葉集』には「言霊」「事霊」といふ言葉が数多く出て来る。

 

「しき島の 日本(やまと)の國は 言靈のさきはふ國ぞ まさきくありこそ」(三二五四。敷島の大和の國は言靈の力によって、幸福がもたらされている國です。どうか栄えて下さいといふ意)

 

『萬葉集』に収められてゐる柿本人麻呂歌集の歌である.『萬葉集』の原文は、「事霊」と書いてゐる。萬葉人にとって「言」と「事」は一体であった。これを「言事不二」と言ふ。言葉は事物そのものであるといふことであり、さらに言へば、全ての存在が言葉であるといふことである。

 

日本民族は「ことば」を大切にし、「ことば」に不可思議にして靈的な力があると信じ、言葉を神聖視した。言葉に内在する霊的力が人の幸不幸を左右すると信じた。日本には「一言主神」といふ神様もおられる。この神様は、「吾は悪事も一言、善事も一言、言ひ離(さか)つ神。葛城の一言主の大神なり」(『古事記』)といふ神である。

 

わが國は「言靈のさきはふ國」と言はれる。「日本は言葉の靈が豊かに栄える國である」といふ意味である。日本人は、言葉に靈が宿ると信じ、言葉は生命を持ち、言葉を唱へることによってその靈力が発揮されると信じた。わが國においては、「ことば」は何よりも大切な神への捧げものとされた。神様に祝詞を唱え、仏様のお経をあげるといふ宗教行為も、言葉に霊的な力があると信じてゐるから行はれるのである。

 

折口信夫氏は、「(言靈信仰とは)古くから傳ってゐる言葉の持ってゐる靈力・魂といふものを考へてゐるのであり、それが言靈、つまり言語の精靈である。祝詞には勿論これがあると信じてゐた。…言葉そのものに威力・靈魂があると考へた。それが言靈である。それは唱辭(トナヘゴト)以外、…抒情詩其他のものゝ上に皆あると信じたのである。古い物語を語るとその内の靈魂が動き出す、歌を歌ひかけると、その歌のうちにひそんでゐる靈魂が働きかけると信じてゐたのである。」(『古代人の信仰』)と論じてゐる。

 

「御託宣」「神示」は神靈が籠り神威が表白された言葉である。「祝詞」は人間が神への訴へかけた言葉であり、「歌」も人間の魂の他者への訴へである。「祝詞」にも「やまと歌」にも靈が込められてゐる。「祝詞」を唱えへ「やまと歌」を歌ふと、そこに宿る言靈が発動し偉大なる力を発揮すると日本人は信じた。神・人・天地自然にまでその力が及ぶのである。これが「言靈の幸はふ」といふことである。

 

神に対してだけでなく、恋人や親や死者や自然や国土など他者に対する魂の訴へかけが、日本文藝の起源である。日本人の言靈信仰が「やまと歌」を生んだのである。

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