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2012年11月10日 (土)

永井荷風の皇室論

永井荷風は次のやうに書いてゐる。

「夜銀座に徃くに號外賣頻に街上を走るを見る。聖上崩御の時近きを報ずるものなるべし。頃日新聞紙朝夕陛下の病况を報道すること精細を極む。日々飲食物の分量及排泄物の如何を記述して毫も憚る所なし。是明治天皇崩御の時より始まりし事なり。當時國内の新聞紙は其筋の許可を得て、明治帝は尿毒症に冒されたまひ、龍顔變して紫黒色となれりといひ、又シャイネストック云々の如き醫學上の專門語を交へて絶命の狀を記したりき。世人は此等の記事を讀みて徒に其の報道の精細なるを喜びしものゝ如し。然れども余をして言はしむれば、是國家の一大事にして、我國古來の傳説は此時全く破棄せられしものなり。我國の天子は生ける時より神の如く尊崇せられしものなりしに、尿毒に冒されて死するか如き事實を公表するは、君主に對する詩的妄想の美感を傷ること甚しきものと謂ふべし。古來支那人が偉人英雄の死を記録するや、仙人と化して其の行く處を知らずとなせしもの寔に故ありと謂ふべきなり。今の世に於て我國天子の崩御を國民に知らしむるに當つて、飲食糞尿の如何を公表するの必要ありや。車夫下女の輩號外を購ひ來って喋喋喃喃、天子の病狀を口にするに至っては冒瀆の罪之より大なるはなし。」(『断腸亭日乗』大正十五年・十二月十三日)

神代以来のわが國の現御神信仰は「君主に對する詩的妄想」では断じてない。わが国肇国以来の伝統信仰である。しかし、永井荷風の言ってゐることに共感するところが多い。

昭和聖帝陛下御不例の時も、医事法違反とも思はれる「御病状報道」をマスコミが繰り返した。マスコミが「知る権利」などと称して、聖上陛下の御病状を事細かに毎日毎日報道したことは、天皇の尊厳性に対する重大なる冒瀆であり、神聖性破壊の策謀であったとさへ思へるのである。マスコミは、皇太子殿下をはじめ皇子・皇族方のお住まひの間取りまでも事細かに報道する。一般庶民であれば当然プライバシーの侵害である。皇族方のお住まひの間取りまでも公にする宮内庁の姿勢も全くおかしい。また「皇位継承」といふ神聖にして侵すべからざることについて、西洋伝来の生物学の「染色体論」や「種・畑論」で喋喋喃喃することはまさに「天皇の神聖性への冒瀆であらう。

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