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2012年11月26日 (月)

『東京国立近代美術館 60周年記念特別展』を参観して

今日参観した『東京国立近代美術館 60周年記念特別展

美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年』

展は、「美術にふるえたことがありますか?美術を体感すること。深く感動すること。知的に考えること。それらすべての出発点である衝撃を『ぶるっ!』という言葉で表しました。あらためて大切にしたいと思う美術鑑賞の原点です。…日本近代美術の100年を回顧する大展覧会を開催します。」との趣旨(案内書)で開催された。

この美術館の六十年間の活動の成果であるコレクションの中から美術史上重要なものが展示したと言う。横山大観「生々流転」、鏑木清方「三遊亭円朝像」、上村松園「母子」、安田靫彦「黄瀬川陣」、原田直次郎「騎龍観音」、岸田劉生「道路と土手と塀」「麗子肖像」、和田三造「南風」、高村光太郎「手」、佐伯祐三「ガス灯と広告」、梅原龍三郎「北京秋天」、宮本三郎「山下、パーシバル両司令官会見図」、藤田嗣治「アッツ島玉砕図」「サイパン島同胞臣節を全うす」、鶴田五郎「神兵パレンバンに降下す」、岡本太郎「夜明け」、松本竣介「建物」、木村荘八「永井荷風『濹東綺譚』挿絵」など数多くの名品を見る。久しぶりに見ごたえのある展覧会であった。

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上村松園「母子」

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佐伯祐三「ガス灯と広告」

横山大観の「生々流転」を見るのは二度目だが、スケールの大きさに驚かされる。まさに大観の名の通り大自然を大きく観て描いた画である。

岸田劉生の「麗子肖像」を間近にゆっくりと見たのは初めでである。写真で見るのとは違って、迫力がある。特に目の光りが凄かった。劉生の子供の対する愛情がひしひしと感じられた。

松本竣介の「建物」は、キリスト教の聖堂を描いた絵であるが、写実ではなく清らかな絵である。松本竣介は初期の生長の家を支えた幹部の息子さんであり、本人も機関誌に原稿を書いたことがある。しかし、何があったようでその一族は一斉に本部の役職を辞した。戦前の話である。

宮本三郎の「山下、パーシバル両司令官会見図」昭和十七年二月十五日にシンガポールが陥落した際、第二五軍司令官としてマレー作戦を指揮した山下奉文(ともゆき)陸軍大将とイギリス司令官のパーシバル中将との会見が描かれている。山下将軍がパーシバルに「イエスかノーか」と高圧的に降伏を迫ったとされ、乃木希典大将と将軍ステッセル将軍との会見と比較して、日本軍人の質は低下したなどと非難されている。しかし、決してそのような事実はなく、実際にはより落ち着いた紳士的な文言・口調の会話だったという。「降伏する意思があるかどうかをまず伝えて欲しい」という趣旨を、日本語が拙劣な台湾人通訳に対して苛立って放った言葉であり、これが新聞等で脚色されたというのが真相であるといわれる。話が一人歩きしていることに対し山下大将本人は気にして、「敗戦の将を恫喝するようなことができるか」と否定したという。また、情報参謀として同席していた杉田一次も含めて全員この出来事を否定している。私は絵画の中に描かれている杉田一次・藤原岩市両先生の謦咳に接する機会があった。両氏は共に参謀であられた。両氏とも明確のその事を否定されていた。杉田氏が、「東條さんは、満洲で憲兵司令官として馬賊の討伐くらいは経験しただろうが、実戦の経験はあまりなかった」と語っておられたのを思い出す。

藤田嗣治の「アッツ島玉砕図」「サイパン島同胞臣節を全うす」は、わが日本軍民が玉砕する凄惨な場面がリアルに描かれている。思わず涙がこぼれた。美術展に展示されている作品を見て涙を流したのは今回が初めてであった。戦争特に近代戦を描いた絵画で名品と言われるものは稀少である。実際の戦闘は、画筆では描き得ない凄まじさがあるからであろう。しかし、藤田の作品は見事である。藤田嗣治は、戦死した軍民の御霊を慰霊するために描いたと言う。凄惨な自決の場面や戦闘の場面が極めてリアルに描かれている。「アッツ島玉砕図」は、昭和十八年九月の「国民総力戦美術展」に出品されたが、参観者は、斃れ行く画中の人の御霊に供養の誠を捧げるべく「お賽銭」を画前に捧げた。藤田嗣治は、こうしたいわゆる「戦争画」を描いたことにより、戦後になって、「戦争協力者」として非難された。他にも戦争画を描いた画家はいたのだが、藤田氏の絵画の評価が高かったので、スケープゴートにされたのである。文壇においては、中河與一・保田與重郎両氏が同じような運命にあった。

ともかく、今日は素晴らしい展覧会を参観することが出来た。

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