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2012年6月 5日 (火)

井上毅は、皇祖は天照大神であることを否定した

新田均氏は、「井上(註・毅)が国家の基本的な枠組みの根拠とその成果とを、神武建国以降の『国史の成跡』に見出している…つまり、井上は、天皇統治の根拠を形而下的なもの(『歴史』的なもの)の上に設定することによって、天皇をめぐって、宗教や哲学といった形而上学的な論争が発生したり、それに天皇や政府が巻き込まれたりすることを避けようとしたのだと考えられる。」(「『現人神』『国家神道』という幻想」)と論じてゐる。

新田氏によれば、『教育勅語』発布後、文部省は解説書を井上哲次郎に依頼したが、井上哲次郎の草案では、勅語の『皇祖』は『天照大御神』、『皇宗』は『神武天皇』であると説明してゐた。井上毅はこれに異を唱へて『皇祖は神武天皇、皇宗は歴代天皇』とするよう求めたといふ。新井氏は、「君臣関係の力点を、神話よりも、神武建国以降の『歴史』に置こうとしたのだと言えよう。」(同書)と述べてゐる。

皇祖は、天照大御神・邇邇藝命であり、皇宗は、神武天皇以来御歴代の天皇である。これはわが國體の根本である。神話を無視して日本國體を論ずることは出来ない。

明治天皇が、「我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ」と示されたのは、天地生成・天孫降臨以来の事を示されたのである。日本國體は神話を基礎とする。「天壌無窮の神勅」が天皇・皇室の尊厳性の基本である。

昭和十二年三月の『國體の本義』は、冒頭で、「我が肇国は、皇祖天照大神が神勅を皇孫瓊瓊杵の尊に授け給うて、豊葦原の瑞穂の国に降臨せしめ給うたときに存する」として、日本の肇国は神武天皇の御即位ではなく、天孫降臨であることを明記した。

井上毅が「神話」を無視した事が、後の内務省官僚の神社政策に影響を及ぼしたのではなからうか。

葦津珍彦氏は、「(『教育勅語』の「皇祖皇宗」の道とか「祖先」の遺風といふ言葉を・註)神宮神社の『神霊』と結びつけることには『神道を国教化するもの』としての強い反抗の底流があった。その反抗の強力なことを知ってをればこそ、井上毅は、とくに厳重な前提条件として尊神とか敬神とか『神霊』を意味する語を絶対に避けねばならないとし、神霊存否の論は、各人の解釈に任せて、勅語そのものの関知せざるところとした。この明治的合理主義官僚が、神社局の思想となる時には、『神霊については当局は関知せず』として、神道独自の精神を放棄して、一切の合法的宗教、哲学との妥協にのみ神経を労して、神宮神社をもって、歴史的偉人の記念堂(モニュメント)と同視して、神道精神を空白化することになる。」「井上は…『神道ヲ以テ宗教トスルハ、實ニ近世一二国学者ノ主導スル所ニ始マル、而シテ之ヲ祖宗ノ遺訓ニ考フルニ、並に徴拠スヘキコトナシ、蓋宗廟ヲ崇敬スルハ、皇家追遠厚本ノ重典、即チ朝憲ニ属シテ教憲ニ属セズ』と述べ、内務省社寺局の神社・神道非宗教論を踏襲してゐる。(『井上毅伝』資料篇第六)」「『神社は宗教に非ず』との政府の公式見解は、古来の日本人の神道信仰心理を抹消しようとした。…内務省の公式見解は、議会、とくに衆議院の建議者たちとは異なって、非宗教といふことを、きはめて世俗の常識合理主義の意味での国家精神(国民道徳)以上のなにものでもないとの意味に解することになった。その解釈を要約すると、神社とは、日本帝国の天皇、皇族または、国家社会に特に功績のあった人格者に対して、伝統的な礼法をもって表敬すべき場所であるといふことである。神主は、国家的記念堂(メモリアル・ホール)の儀礼的執行者であり管理人であって、特殊格別の宗教信仰心や思想を持つものではない。忠良な臣民としては、仏教、儒教、キリスト者と同一の国民精神を持つべきで、神道といふ特殊の宗教や思想の対立的独自の立場があるべきではないといふのである。」(『国家神道とは何だったのか』)と論じている。

神霊への信即ち造化の三神への信を無視した國體精神は、日本国生成の根本を無視することとなり真の国体精神ではない。「憲法」や「勅語」において日本傳統信仰の神霊への信を無視する必要はさらさらない。むしろ神霊への信仰の無視が祭祀国家の本姿をくらませて日本を西洋覇道精神が横溢する原因になった考へる。造化の三神・天地開闢神話を無視することは、日本伝統信仰の根源にあるものの否定である。

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