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2010年6月 6日 (日)

菅直人氏が為すべきこと

テレビ朝日のインタビューで菅直人夫人は、「ファーストレディはアメリカの言葉であって、また日本にはファーストレディは他にいらっしゃる(皇后陛下)ので、首相夫人と呼んでもらいたい」と言ったという。

見識のある発言である。夫の菅直人次期総理が、火曜日に皇居で行われるという『任命式』と『認証式』を「皇居における手続」などと不敬千万なことを言ったのとはえらい違いである。

菅直人氏は、平成十八年十月五日の衆議院予算委員会において、当時の安倍晋三総理に対して「大東亜戦争開戦の詔書に大臣として署名している貴方の祖父の岸信介大臣の行為は正しかったのか、誤っていたのか」と質問し、「(岸元総理が)開戦詔書に署名したのは、今、考えると間違っていたのではないかと、そういうふうな認識だと理解していいですか」と問い詰めた。

歴史問題は國會といふ政治闘争・権力闘争の場で論議すべき事柄ではないし、政争の具にしてはならない。さらに言えば、孫に対して祖父の責任を問うて何になるのであろうか。菅直人氏の道義感覚・人権感覚を疑う。こういう行為を「いじめ」と言うのである。青少年に悪い影響を与え教育上も良くない。孫と祖父とは政治的には勿論一般の犯罪についても全く関係ない。一体祖父の行為が孫に何の関わりがあるのか。

祖父のしたことの責任を孫に問い詰めることが正しいと思っているのなら、菅氏は、鳩山由紀夫氏の祖父・鳩山一郎氏の行為についてこそ厳しく問い詰めるべきである。昭和五年、当時政友會幹事長であった鳩山一郎氏は、軍部に協力して「統帥権干犯問題」を議会で取り上げ、民政党の浜口雄幸内閣を責め立て、「用兵と国防計画は憲法一一条(『天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス』)の作用である。政府が軍令部長の意見に反して国防計画に変更を加えたことは乱暴ではないか。」「国防計画は統帥府の責任であり、政府が変更するのは、一大政治的冒険だ」と迫った。

 この鳩山一郎氏の行為について、今日次のような批判がある。

「日本の野党は自分たちの利益を優先し、国益を忘れて政権政党を攻撃するのは昔も今も変わりありません。」「統帥権干犯問題を大きくした原因は野党の不見識と海軍内の海軍省と軍令部の派閥争いです。」「その後は、統帥権干犯という言葉は、それまでほとんど使われたことがないのに、特に軍人たちの間で大手を振って歩くようになったのです。」(「鈴木敏明氏『大東亜戦争はアメリカが悪い』)

「浜口内閣が三〇年にロンドン海軍軍縮条約を締結すると、民政党内閣をつぶすために政友会の犬養毅、鳩山一郎らは『統帥権干犯だ』と批判した。これは昭和史を破局に導くような重大発言だ。軍縮条約を政党内閣は結べないことになる。政党にはその力がないとい自己否定しているのと同じだ。…政争に統帥権干犯を使ったことで政党が軍部と結託する構造が出てくる。」(読売新聞戦争責任検証委員会『検証戦争責任』における松本健一氏の発言)

「何と野党政友会が、海軍の味方をした。というより、明らかに浜口内閣を潰すために『統帥権干犯』だと、軍を呼び込むかたちで大問題としたのだった。政党としては、軍が政治に介入する危険性が生じれば、対立党とも協力して、懸命に介入の阻止を図るべきなのに、政友会は、その逆をやってしまったのである。」(田原総一朗氏『日本の戦争』)

このように「鳩山一郎氏の行為が、軍人が『軍人勅諭』に反して政治に関与する道を開き、政党政治崩壊の導火線となった」とする説が通説となっている。

「大東亜戦争を日本の侵略戦争であり、軍部の台頭と横暴が日本を戦争に追い込んだ」とするいわゆる「東京裁判史観」から見れば、鳩山一郎氏の行為は「日本を侵略戦争への道を歩ませた」ということになろう。そしてその「誤り」は、岸信介氏が『開戦の詔書』に副書した以上に大きいとされるであろう。

大東亜戦争はわが国の一方的な侵略であったと思い、それに参加し協力した政治家・軍人などの本人はもちろんその子孫までもがその責任を負い、先祖のしたことを批判し否定しなければならないと思っている菅氏は、安倍元総理に対して行ったと同じように、鳩山由紀夫氏に対しても「貴方の祖父の鳩山一郎氏の行為は正しかったのか、誤っていたのか」と問いただすべきである。

また、昭和八年五月二十六日、当時文部大臣であった鳩山一郎氏が、「滝川幸辰京都帝国大学教授(当時)の学説は危険思想である」として、小西重直京都帝国大学総長に滝川教授の辞職を要求したことは「正しかったのか、誤っていたのか」問いただすべきである。

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