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2008年4月 2日 (水)

千駄木庵日乗四月一日

午前は、父の付き添いで病院に赴く。今日は定期的な診察と治療。

午後は、世田谷の蘆花公園にある世田谷文学館にて開催中の「永井荷風のシングル・シンプルライフ」展参観。

この展覧会は、「居住地域に関係なく、都市的独身生活を満喫する人々。望むと望まざるとに関わらず、当たり前となった一人だけの老後を過ごす人々。荷風は、現代人が直面している『一人で生きること』への処世術をいち早く体現しました。荷風は今こそ読んで為になる作家であり、『文学なんて関係ない』と思う現代人にこそ出会ってほしい作家なのです。

本展は、永井荷風と現代社会に生きる私たちが出会うための展覧会です。40年余りにわたって書き続けられた日記文学の傑作『断腸亭日乗』自筆稿本や、一人暮らしを支えた身の回りの品々、また、今回初公開となる小堀杏奴(森鷗外次女)あての書簡など多彩な資料を展示いたします。そのライフスタイルや作品をじかに体感し、シンプルライフのレッスンをはじめましょう!」との「趣旨」で開催された。

荷風の自筆原稿・初版本・書簡・短冊・色紙・写真・日用品などが展示されていた。『断腸亭日乗』自筆稿本は初めて見た。

荷風は私の好きな近代作家である。全集に収められている作品はすべて読んだ。鋭い近代批判はなかなか勉強になるしおもしろい。荷風は、千駄木に住んでいた森鴎外を尊敬し、師と仰いでいたので、若き日には団子坂上の森鴎外の家にはよく来たらしい。荷風は『日和下駄』という随筆で、鷗外の家の前の藪下通りという道が、東京で最も趣があり景色の美しい道であると激賞した。

また、私が文藝上の師と仰ぐ中河与一先生の『天の夕顔』をゲーテの『若きウェルテルの悩み』に匹敵すると激賞した。

『断腸亭日乗』には、千駄木だけでなく二松學舎のある九段界隈や私宅近くの湯島・谷中などのことがよく出てくる。また、中河与一氏だけでなく、私が書生として仕えた帝都日日新聞社主の野依秀市先生や私の尊敬する赤尾敏先生の事も記されている。

私も六十歳の今日、独身を貫いている。このままいけば、小生も「一人だけの老後を過ごす人々」の一人に加わることになる。以上のような理由から、荷風文学がとても好きなのである。

私は、森鴎外のお孫さんと小学校で同級生であった。また、大学時代の恩師である濱隆一郎先生(二松學舎大学教授・漢学者)は、森鴎外が帝室博物館館長・宮内庁図書頭の任にあった頃、部下として仕えた。また私も私の母も、森鴎外の令嬢である小堀杏奴さんの知遇を得た。今日の展覧会では、小堀杏奴さんが荷風に出した手紙と荷風が杏奴さんに出した手紙が多く展示されていた。

荷風は有体に言って相当変人であったと思われるが、その文明批評と江戸情緒を描いた作品と日記・随筆は不滅の価値を持つと思う。

蘆花公園という駅は通過した人はあるが下車したのは初めてで、マンションが立ち並んでいるけれども、東京郊外の面影を残し、なかなか美しい町であった。

夕刻は、知人の通夜に参列。

帰宅後は、書状執筆、資料の整理など。

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